日本農村医学会学術総会抄録集
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第55回日本農村医学会学術総会
セッションID: 2E13
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長期入院患者に対するSSTの有効性に関する一考察
小林 哲雄岡部 明美畠山 富子
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抄録

<はじめに>美里分院3F病棟は、精神療養病棟として60名が入院しており、平均年齢は60歳である。入院患者は統合失調症が98%と多く、平均在院期間は1766日(平成16年6月現在)に及んでいる。長期慢性入院患者の多くは、精神症状が落ち着いても、社会生活を送る生活技能が不足しており、特に人との付き合い方が苦手なため、退院しても病状を崩すことが多いとされる。当病棟においても、対人技能の不足から「あいさつができない」、「いやと断れない」などの患者が多く見られる。そこで、当病棟では、生活技能の獲得に有効 とされているSST(social skills training 以下SST)を行っている。
 今回は、対人技能の向上をめざし、約3ヶ月間のSST活動を行った。どのような活動がしたいのか、話し合いをもとに、病院外でのセッションを行い、そして、病棟で入院患者の前でSST活動の経過を発表することができた。これらの活動を通して、SSTが失われた生活技能を獲得する一助として有効であることが、メンバーの表情から確認することができた。今後のSST活動の有効性と活動のあり方について考察したので報告する。
<研究経過と考察>今回SSTのメンバーは、生活を送る技能の乏しさがあるため、セルフケア能力を高め社会復帰への足がかりをつかもうとしている患者である。患者に見られる生活技能の乏しさは、生活技能を学習していないことや、学習したとしても陰性症状により持っている技能を発揮できないことからきている。そのため、「生きる喜び」を感じるどころか、朝の挨拶さえしない毎日を過ごしている。
 SSTのセッションでは、最初、ウオーミンク゛アッフ゜で自己紹介を兼ねゲームを行い、和やかな雰囲気作りをした。不参加や断りの自由を保障しながら、挨拶や礼儀の課題を出し合ったり、課題のロールプレイを行ったりしながら進めた。セッションを開始する際には必ず、「SST参加のルール」、「良いコミュニケーション」、「練習の順序」が書かれた3枚の用紙をボードに提示し、メンバーと確認したあと活動した。「SST参加のルール」は、人の良いところは褒め、良い練習ができるように他の人を助けあい、「良いコミュニケーション」では、相手と視線を合わせ、はっきりと大きな声で、明るい表情で話す、さらに、「練習の順序」では、課題を出し練習場面を作って練習をし、良いところを褒めるなど心がけ進めた。
 実際にメンバーとセッションを繰り返した結果、単語のみだったやり取りから、「やりたいことを考え」、「実行したことに感動し」、「褒められたことで輝く笑顔が見られ」、何より今まで見られなかった、「人前で話をすることや自分の気持ちを相手に伝える事」など触れた事でSSTの効果を実感することができた。SSTで練習したことによりメンバー個々の対人技能獲得のスキルアップにつながったと言える。
 SSTは、「患者の不足しているところ、弱いところを看護者が補うのではなく患者自身が判断し、前向きに行動できるようになることを目的としている。」 SSTを行うにあたって私は、メンバーが他のメンバーから褒められた場面や、課題達成を支える関わりを大切にした。メンバーの対人技能を向上させるためには、メンバーの肯定的で前向きな姿勢を引き出すことが重要な要素だと再確認できた。

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© 2006 一般社団法人 日本農村医学会
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