日本農村医学会学術総会抄録集
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第56回日本農村医学会学術総会
セッションID: 2D12
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一般演題
農業体験の運動効果に関する研究
~ライフコーダEX着用データから~
矢島 伸樹前島 文夫西垣 良夫
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抄録

〈緒言〉 「農業体験が身体機能に与える影響を、健康指標データとの関連により解明し、農業体験が有する高齢者の身体機能の低下軽減効果について検討する」という課題の下、長野県厚生連健康管理センターの健診データにより、農業従事者と非従事者の動脈硬化危険因子、食生活の状況を比較検討した結果、農業従事者は高血圧・糖尿病・高脂血症・高尿酸血症等の保有率が低く、また食生活習慣も良好であるという結果が認められた(17年度本学会で報告)。本研究ではその要因を検討するために、農業体験の運動効果を検討した。農作業の実施に運動効果が認められるかどうかについては、基本的にはあると考えられるが、農業非従事者と比べて確かに身体活動量が多い、という客観的データは乏しい。そこで本研究では農業に関わる度合いが様々な被験者に小型生活記録機ライフコーダEXを装着し、農業従事者と非従事者の身体活動状況(運動量・歩数・活動時間)を数量的に比較分析した。
〈方法〉 小型生活習慣記録機lifecorderEX(スズケン製)の装着により、研究開始時61~70歳の佐久総合病院OB会員約40名の身体活動状況(分析指標:運動量、歩数、運動強度、活動時間)を数量的に記録し、同時にPOMS(気分状況のテスト)を実施した。最終的な対象者は40名となったが、約55日の期間中(平成17年10月下旬~12月中旬)に農作業を10日以上行った群(16名)と、0~9日の群(24名)の2群で比較検討を行った。各群毎に、個人の期間中の1日当たりの運動量(kcal)、歩数(歩)、運動強度3以上(分:運動強度は0~9の段階で示される)、活動時間(分)を集計し、検討データとした。POMSについては6つの指標のスコアを集計し、群間の分布の比較を行った。また期間中、被験者に農業実施の有無を日毎に記録してもらい。期間内における農作業実施日と非実施日の比較も行った。検定においては、ノンパラメトリック検定を実施した。
〈結果〉 約55日間の期間中、農作業を10日以上行った群と、0~9日の群を比較すると、運動量(kcal)、歩数(歩)、運動強度3以上(分)、活動時間(分)の全ての指標について農作業を10日以上行った群が、対照群に比べて多くなっており、特に運動量・歩数・活動時間についてはノンパラメトリック検定で有意差が生じた。また歩数については平均値・中央値において10日以上の群は9000歩を超え、国の健康づくり指標の基準値8000歩を大きく上回った。
 また農業を全くしない人を除いた27名で、農作業日―非農作業日の対応関係を検討すると、運動量(kcal)、歩数(歩)、運動強度3以上(分)、活動時間(分)の全ての指標で農作業日の活動量が多く、特に歩数、活動時間で有意に農作業日が多いという結果が出た。
 POMSに関しては、特に不安-緊張の尺度が10日以上農業をしている群で有意に低いという結果が出た。
 以上、本研究では限られた条件下における結果であるが、農作業の継続的な実施により身体活動状況が良好になり、加えて精神状況の安定が図れるという結果が得られた。

(本研究報告は、独立行政法人農村工学研究所の交付金プロジェクト研究の一環として平成16~18年度に実施した委託研究の成果の一部である。)

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© 2007 一般社団法人 日本農村医学会
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