日本農村医学会学術総会抄録集
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第56回日本農村医学会学術総会
セッションID: 2F313
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一般演題
内服困難な患者に対するゲフィチニブ投与に薬剤師が効果的に介入できた1例
間瀬 悟河村 真由美岩井 友香里米山 英二祢宜田 和正杉浦 洋二三浦 崇則勝見 章男原 徹
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抄録

【はじめに】ゲフィチニブ(商品名:イレッサ)は選択的上皮成長因子受容体(EGFR)チロシンキナーゼ阻害剤として非小細胞肺がんの適用を持つ経口の分子標的治療剤である。今回、内服困難な患者に対し薬剤師の介入によりゲフィチニブの投与が可能となった症例を経験したので報告する。
【症例】57歳女性。原発性肺腺がん、多発性脳転移、副腎増大、肝転移あり。喫煙歴なし。全脳照射後にカルボプラチンとパクリタキセルの化学療法を1クール施行した。その後重篤な骨髄抑制が認められたのに加え、患者のPS(performance status)の低下がみられた。点滴によるがん化学療法の継続は困難であると判断され、ゲフィチニブが投与されることになった。本患者は以前より錠剤をなかなか飲み込むことができない、水剤を服用するとむせてしまう、などの嚥下困難がみられていた。
【薬剤師による介入】薬剤管理指導を通じてゼリー状の固形物であれば摂取することができるとの情報を得ていたため、ゲフィチニブについて製剤学的なデータを検証した。添付文書より製剤の水に対する溶出率は低く、水に溶けにくいことがわかった。しかし製薬会社からの情報提供により、錠剤はフィルムコートが施されているが徐放性や腸溶性を目的としていないこと、また錠剤は容易に懸濁でき、その懸濁液を内服した場合の薬物動態は錠剤を投与した場合と比較して有意な差はなく、安全性も特に重篤な問題は認められないことが分かった。これらを総合的に判断して水で懸濁させ、とろみをつけてスプーンで投与する方法を医師に提案し、この方法による投与が採用された。医師より患者とその家族へ投与に対するインフォームドコンセントが行われた後、薬剤師が投与方法も含めた服薬指導を行い、その翌日からゲフィチニブの投与が開始された。懸濁液の調製については錠剤が崩壊しやすいようにあらかじめコーティングを破壊し水を加えたところ、錠剤は容易に崩壊したため、その作業は煩雑なものではなかった。内服開始当初は家族や看護スタッフの介助により比較的スムーズに内服できた。病態が進行していくにつれ嚥下困難も進み、内服にかかる時間も増してきたが、最終的に永眠される前日(内服開始から10日目)まで本投与方法に関わる有害事象の発現はみられなかった。
【考察】本症例に対する介入は医師より相談を受けてから投与開始まで約1日という短期間で実施された。これは一連の治療の経過を把握し、患者と継続的に関わってきたから達成できたものと考える。また本症例のように薬剤の製剤学的かつ薬物動態的な情報が治療方針を決定する上で重要な要素となり得る場合もあることから、これらの情報を分析し、情報提供を行う薬剤師の役割は大きいと考える。
【まとめ】がん化学療法は効果と副作用が近接しており、腫瘍のみならず患者の状態や治療薬の特性を考慮した投与が特に重要となる。加えて医療チームによる高度な薬学的ケアが欠かせないため、薬物を熟知した薬剤師の役割は重要なものであると考える。また本症例のように薬剤師の介入によって患者の希望に沿ったよりよい治療が行われるためにも今後も積極的に治療に参加していきたい。

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© 2007 一般社団法人 日本農村医学会
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