日本農村医学会学術総会抄録集
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第56回日本農村医学会学術総会
セッションID: 2F314
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一般演題
当院における塩酸バンコマイシン点眼液の使用経験と製剤学的検討
小林 融前田 直希羽田 清後藤 元彰沖 健次前田 正雄曺 麗加平岩 二郎
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キーワード: バンコマイシン
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抄録

【目的】 近年、メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(Methicillin-resistant Staphylococcus aureus:MRSA)による感染症が眼科領域においても症例があり、塩酸バンコマイシン点眼液(以下:VCM点眼液)の他、硫酸アルベカシン点眼液の調製が報告されている。しかし、適応外使用、コストや安全性、調製方法また製剤学的安定性や保存方法等について検討すべきである。今回、眼脂にMRSAを検出した患者に対し、VCM点眼液の調製を初めて経験した。そこで、VCM点眼液の処方、製法の検討および安定性の確認を実施し、また本製剤を投与した患者への服薬指導について報告する。 【方法】 クリーンベンチ内にて、塩酸バンコマイシン点滴静注用0.5gを生理食塩液に溶解し、0.5%~3%のVCM点眼液を調製した。それらの外観、浸透圧、pHについて室温保存と冷所保存に分け、散光下と暗所下にて2ヶ月間の安定性確認を行った。 【結果・考察】 外観は、0.5%は4週間室温・冷所ともに変化は見られなかったが、6~8週間前後を境目に室温散光下ならびに室温暗所下保存の点眼液において白色結晶が見られた。また、濃度を上げるにつれ性状の変化は早く、2週間ほどで白色結晶が観察された。そして、浸透圧は生食比1.01~1.08、pHは約3付近で、どの濃度においても大きな経時的変化は見受けられなかった。保存方法に関しては、「病院薬局製剤」(薬事日報社刊)に室温にて14日間使用可能とあるが、安定性は、冷所保存の方が室温保存より安定性が高いとの報告があり、当院では冷所にて14日以内に使用可能とした。 今回の症例患者は、79歳女性、眼類天疱瘡にて両眼の角膜移植後で通院中であり、眼脂よりMRSAが検出された。左眼は角膜移植後の経過が悪く、眼瞼が縫合されており、点眼、軟膏などがうまく入らないとのことで、縫合してあった眼瞼の癒着剥離手術目的で入院し、VCM点眼液をはじめとする治療をするため服薬指導を行った。今回は、文献報告の中で最も濃度の低い0.5%の指示により調製した。pH未調整であるため、VCM点眼液の使用により刺激症状、眼瞼炎、びまん性表層角膜炎などが発生したとの報告があり心配されたが、服薬指導においては最初の点眼時には刺激があったものの、以後には消失したと言われ、その後の訴えは無かった。また、眼脂や疼痛の症状は、投与後1~2週間で劇的に改善し、3ヶ月後の培養検査でMRSA陰性となった。 上記の結果と0.5%では生食溶解時に6ヶ月安定との文献報告があることから、医師との相談により、当院では今後の保存方法に関しては、冷所にて14日以内に使用可能から冷暗所下保存にて4週間へと変更した。これにより、コスト削減をすることができ業務の軽減化にもつながった。 【結語】 pH未調整の点眼液は、リン酸緩衝液を含む点眼液に比べ析出速度が遅いとの報告もあり、VCM点眼液の濃度を考慮しながら調製していく必要があると思われる。そして、点眼時の刺激等を配慮しつつ、患者の点眼コンプライアンスの向上と治療に貢献していきたい。

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© 2007 一般社団法人 日本農村医学会
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