抄録
【緒言】認知症高齢者に見られる不穏や興奮、暴力などの行動は環境の変化やコミュニケーションが十分に取れない事に対する不安や苛立ちが背景にあると言われる。認知症ケアに対するコミュニケーション方法において、ナオミ・フェイル1)が開発したバリデーション療法は、認知症高齢者の問題行動には理由があると捉え共感して接するセラピーで、わが国でも介護の現場で注目され始めている。一方、A病院療養病床では、これまで認知症高齢者とのコミュニケーション方法について試行錯誤しながら援助を行ってきた。その結果、徐々に不穏行動が落ち着いたり、発語の無かった患者が話し出したりする等の変化が見られるようになったが、これらは必ずしも意識的に実践してきた結果ではなかった。その折バリデーション療法について学ぶ機会を得たところ、これまでの試行錯誤による実践との共通点があることに気づいた。そこで過去の事例の中で問題行動に変化が見られた認知症高齢者との関わりを振り返り、バリデーション療法の技法と照らし合わせ、分析したので報告する。
【研究方法】
1)調査期間:平成19年5月~8月
2)研究対象:上記入所中の会話可能な認知症高齢者のうち言動に変化が見られた3名の看護記録
3)方法:_丸1_関わった時の言動や動作を看護記録より収集_丸2_対象と看護師の言動・行動をバリデーション療法のコミュニケーション技法と照合し分析する。
4)倫理的手続き:対象となる記録類の使用について、研究主旨や匿名性の保障について説明し、施設責任者、看護部門責任者の許可を得た。
【バリデーション療法のテクニック】
解決ステージを4段階に分類し以下の
テクニックを用いて関る_丸1_センタリング_丸2_事実に基づいた言葉を使う_丸3_リフレージング_丸4_極端な表現を使う_丸5_アイコンタクト_丸6_曖昧な表現を使う_丸7_反対の想像をする_丸8_思い出話しをする_丸9_はっきりした低い声で話す_丸10_ミラーリング_丸11_満たされていない欲求を行動に結びつける_丸12_好きな感覚を用いる_丸13_タッチング_丸14_音楽を使う
【結果と考察】
普段、殆ど自分から発語が無かったA氏が昼夜問わず大声で呼んでいた。これに対し要求内容を問うだけの関りから、目線を合わせ、背部をさすりながら問う関りを行った結果落ち着かれ静かになった。B氏に対しては、朝早くから家族に電話をしてほしいと要求があった。それに対しB氏と向かい合い、手を握りながらゆっくり聞いているうちに電話要求しなくなった。両氏の関りをバリデーションテクニックに照合すると_丸5_・_丸9_・_丸13_に当たる。これは対象の状況や性格を把握し問題行動に焦点をあて対応した事が良い結果に結びついたと考える。C氏は車椅子乗車中の不穏動作がみられた。世話好きで母親的な役割意識が強いC氏に対し食事後のタオルの洗濯や、朝食の準備等役割を与え、次への期待に繋げる声賭けを行った結果心身共に落ち着いた。これは、_丸11_のテクニックである、満たされない欲求を役割という行動に結びつける事により落ち着きを取り戻したと言える。
【結論】
認知症患者への関わり方を振り返った結果バリデーション療法のテクニックと多くの共通点がある事がわかった。今後は意識的・系統的かつ適切に同方法を用い、コミュニケーションの改善を図るように務めていきたい。