日本農村医学会学術総会抄録集
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第57回日本農村医学会学術総会
セッションID: 2F220
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一般講演
成人の百日咳
三井 清文石橋 敦三島 英行前田 正光渡邊 宗章津久井 一深澤 洋黒田 裕久佐藤 ?美
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抄録

〈緒言〉
近年我が国で、百日咳の増加が指摘されてきている。とくに注目すべきは、成人患者の増加傾向である。頑固で長引く咳の症状で受診する患者のうち,かなり多くの割合が百日咳感染である可能性がある。
〈対象〉
水戸協同病院総合外来にて診療した成人百日咳症例を対象にした。
〈結果〉
昨年6月から本年3月末迄の10か月間に成人百日咳は38人(男性22人,女性16人)で,年齢は20~75才(20才台12人,30才台13人,40才台2人,50才台9人,60才台1人,70才台2人)であった。他に百日咳の可能性が残った疑い例が3例あった。
本年1月以後に増加傾向が見られる。
診断は特徴的な頑固で長引く咳(連続する咳込み,奥から突き上げてくるような咳,むせ返るような咳,会話で誘発される咳,胸痛を伴う咳,嗄声を伴う咳)の症状を訴える患者に百日咳抗体検査(細菌凝集法)を行い,40倍以上の凝集価を示し,マクロライド系抗生物質等の百日咳治療に反応した患者で,他の疾患を除外できたものとした。
発熱(37.0~39.4℃)は19人(50.0%)にみられたが,半数ではみられなかった。白血球増多(9300~21,300/mm³)は11人(29.0%)に認められたに過ぎず,リンパ球増多を示した例は1例もなかった。
CRPの上昇(0.5~23.45mg/㎗)は12人(31.6%)にみられた。1才時に百日咳に罹患した既往例が1例あった。百日咳抗体(菌凝集価)は東浜株については10~1280倍(平均207倍),山口株については10~1280倍(平均209倍)であった。
治療は大多数がマクロライド系抗生物質の14日前後の内服により速やかに軽快したが、一部咳が遷延するものもあった。急性肺炎像を示し、百日咳肺炎と考えられたものが5例あった。今回,当院でみられた成人百日咳38症例の中に,百日咳肺炎の合併と考えられるものが5例認められたことは注目に値する。今回の百日咳肺炎合併例は38~75才(男性4人、女性1人)で2人に糖尿病があり,70才以上の高齢者が2人であった。5人中4人が入院治療を要し,糖尿病がある2人は重症化し,長期入院を予儀なくされ,治療に難渋した。
〈考察〉
1)当院総合外来のみで,短期間に38例もの成人百日咳を認めたことは,はるかに多くの百日咳患者がかぜ,感染後咳嗽,咳喘息,アトピー性咳嗽等の診断を受けている可能性が大きい。
2)成人百日咳は従来言われてきたように,軽症の経過をとるものばかりでなく,百日咳肺炎を合併するものがみられ,高齢者・糖尿病合併例等では重症化し易いので,注意が必要である。
〈まとめ〉
水戸協同病院総合外来における「頑固な咳」を主訴とする患者から,高頻度に成人百日咳が診断された。報告例の10倍以上の実質患者がいるであろう。
医師も,常に成人百日咳が,ありふれた疾患として広く存在していることを念頭におく必要がある。さらに,百日咳肺炎を合併する成人百日咳も稀でなく、急性肺炎の診療においても、百日咳肺炎の鑑別診断が常に必要であろう。

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© 2008 一般社団法人 日本農村医学会
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