日本農村医学会学術総会抄録集
Online ISSN : 1880-1730
Print ISSN : 1880-1749
ISSN-L : 1880-1730
第57回日本農村医学会学術総会
セッションID: 2F221
会議情報

一般講演
当院におけるA群溶血性レンサ球菌の細菌学的検討
-過去10年にわたる調査成績と比較して-
舟橋 恵二中根 一匡安田 直子西尾 一美成田 敦鈴木 道雄小山 慎郎牛田 肇西村 直子尾崎 隆男
著者情報
会議録・要旨集 フリー

詳細
抄録

〈緒言〉 A群溶血性レンサ球菌(group A streptococcus: GAS)は,上気道炎や膿痂疹などの起因菌としては古くから知られている。1980年代からは劇症型A群溶血性レンサ球菌感染症が報告されるようになり,再び注目されるようになった。今回,小児科領域におけるGASの実態を把握するために,月別分離状況,T血清型および抗菌薬感受性を調査した。さらに,過去にわれわれが行った3回の調査成績と比較検討したので報告する。 〈対象と方法〉 2006年1月~12月の1年間に当院小児科の気道感染症患者より採取した咽頭拭い液を分離用検体とした。438名の患者より438株のGASを分離し,これらを対象菌株とした。T血清型別はA群溶連菌用T型別用免疫血清を用いて行った。抗菌薬感受性試験はドライプレートを用いて微量液体希釈法で行い,PCG,AMPC,CTX,CTRX,CDTR, CFPN,PAPM,IPM,EM,CAM,CLDM,MINO,NFLX,VCMについてMICを求めた。われわれは1996年,2001年,2003年と同様の調査を行っており,今回の成績をこれらの成績と比較した。 〈結果〉 月別分離数は5月に61株と最も多く,次いで2月49株,4月47株,6月43株,の順であった。分離のピークは4~6月と11月~3月の2峰性を示し,過去3回の成績と概ね一致していた。T血清型別分離数は,1型が最も多く110株(25.1%),次いで12型107株(24.4%),NT 79株(18.6%),4型77株(17.6%)であった。12型はすべての調査期間において全分離数の20%以上を占めたが,1型や4型は流行型とならない調査年もあった。抗菌薬感受性試験では,PCG,AMPC,CTX,CTRX,IPM,PAPM,CDTRのMICは全株が≦0.12μg/mlに分布した。一方,EM,CAMに対しそれぞれ19.6%,CLDMに対し3.2%,MINOに対し11.6%,NFLXに対し27.6%が耐性を示した。 EM耐性率は1996年の8.6%から,CAMの耐性率は2001年の13.2%からそれぞれ上昇傾向を示した。今回分離されたT血清型別の抗菌薬耐性率は,4型が最も高く,EM,CAMに対してそれぞれ67.5%,NFLXに対して53.2%であった。今回は分離されなかったが,2001年,2003年に分離された25型は97%以上がEM,CAMに耐性であった。 〈考察〉 これまでわれわれが行ってきたすべての調査において,GASの月別分離数は春~初夏,冬季の2つのピークがあり,感染症発生動向調査(国立感染症研究所)の結果と同様の傾向を示した。わが国におけるGAS のT血清型別は1型,4型,12型で60%以上を占めると報告されており,今回のわれわれの成績も一致していた。一方,調査年により分離数に大きな変動がある型の存在も確認した。抗菌薬感受性試験では,全ての調査期間において,ペニシリン系,セフェム系,カルバペネム系抗菌薬およびVCMに耐性の株は認められなかった。特にCDTR,PAPMおよびIPMのMICは,これまで査期間した全分離株が≦0.03μg/mlと低値であった。一方EMとCAMに対する耐性率は,1996年から経時的に増加した。また,4型や25型のように,特定の型による抗菌薬耐性傾向を確認した。GASのマクロライド耐性率は世界規模で増加しており,今後もGAS株の動向について注意深く調査していく必要がある。

著者関連情報
© 2008 一般社団法人 日本農村医学会
前の記事 次の記事
feedback
Top