日本農村医学会学術総会抄録集
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第57回日本農村医学会学術総会
セッションID: 2F228
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一般講演
大規模地震災害が血液透析患者に与える影響
各種血液生化学的マーカーの変動および臨床症状について
土田 恵美子佐藤 舞子坂井 恵子長谷川 伸倉持 元
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抄録

大規模地震災害が血液透析患者に与える影響:各種血液生化学的マーカーの変動および臨床症状について 新潟厚生連刈羽郡総合病院透析室 ○土田恵美子、佐藤舞子、坂井恵子、長谷川伸、倉持 元 【目的】平成19年7月16日に新潟県柏崎市は震度6強、マグニチュード6.8の新潟県中越沖地震を血液透析施行中に被災しました。当院透析室では16日当日は急遽時間を短縮(3時間)して昼間、夜間透析を続行しましたが、翌17、18日は給水不足にて入院透析患者のみ当院にて透析は施行しましたが、外来透析患者は支援透析施設に臨時透析を依頼しました。19日からは当院にて変則的に透析を再開し、2週間後に通常の体制に戻しました。しかしライフラインの完全な復旧には約1カ月を要しました。そこで今回、このような大規模地震災害が血液透析患者の各種血液生化学的マーカーおよび臨床症状に与える影響を検討した。 【方法】新潟県中越沖地震を被災した血液透析患者132名を対象として、各種血液生化学的マーカーの変動は被災前の各値を基準として被災後1、3、6カ月の時点で測定し各前値と比較検討した。また被災後の臨床的諸症状の発生頻度も調査した。 【結果】血液生化学的マーカーの変動では、血清TP、TC、トランスフェリン値は1ヵ月後に有意に低下したが、3、6ヵ月後には増加し回復した。また血清HDL-C値は1、6ヶ月にて有意に低下した。血清Alb値は1、3、6ヶ月後とも有意に低下し回復が認められなかった。血清TG値は変動が認められなかった。Hb、Ht値は1ヶ月後で有意に低下したが3、6ヵ月後では回復した。また血清BUN、Cre値は3ヶ月後に有意に低下した。血清尿酸値には変動は認められなかった。血清Na、K値は1、3、6ヶ月後とも有意に低下し、血清P値は3ヶ月後に有意な低下を認めた。血清CRP値には変動は認められなかった。さらに平均血圧値、体重増加量、Dry Weight値およびCTR値には変動は認められなかった。また臨床的には心不全の併発が地震後1ヶ月以内に4人、2ヶ月後に1人、3ヶ月に1人、シャント閉塞が1ヶ月以内に2人、3ヶ月後に1人認められた。その他住宅のあとかたづけ中の外傷および脱水状態に陥った患者が3人認められた。 【考察】今回のような大規模地震災害を被災すると、ライフラインが長期にわたり停止し、食および住環境に大きな変化が起こる。このため日頃の生活リズムが崩れそれに伴い精神的にも強いストレスが生じると考えられる。今回の結果から、多くの血液生化学的マーカーの変化および新たな臨床症状の発生は、ライフラインが完全に復旧するまでの約1ヶ月以内におこっていることに注目すべきであると思われる。その後生活にも落ち着きを取り戻す3ヵ月後頃には、大部分の血液生化学的マーカーは前値まで回復し、臨床症状の発生も減少してくる。しかし中には血清Albのように地震災害後6ヶ月経っても回復しないものもあり、今後その経過を観察する必要があると思われる。 【結論】大規模地震災害は主として、食および住の生活環境の激変およびそれに伴う強いストレスが発生する。その影響が今回の血液生化学的マーカーの変化および臨床的結果として現れたと思われた。特にライフラインが完全に復旧するのに要した被災後1ヶ月以内に各種血液生化学的マーカーの変動および新たな臨床症状の発生が集中しており、これらの点は今後の大規模地震災害後の血液透析患者の管理を考えていくうえで、非常に参考になると考えられた。

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© 2008 一般社団法人 日本農村医学会
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