日本農村医学会学術総会抄録集
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第59回日本農村医学会学術総会
セッションID: W1-6
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「宅老所やちほの家」開設の意義と効果
今井 靖征矢野 文恵輿水 さと子朔 哲洋佐藤 ひろみ東川 房子富澤 恵利子篠原 晴美出浦 美穂子
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抄録

「やちほの家」は、人口は4777人、高齢化率26、4%(平成12年国政調査)の旧八千穂村に平成16年12月に開所した。現在定員12名、一般型の通所サービス事業所である。開設の経過は当時大型の通所サービスでは馴染めず、家族の介護負担が深刻化していた若年性認知症の6例に対し、新たに小規模施設の構築が行政施策として展開され佐久病院に運営委託された。今回5年間の「やちほの家」の活動を通し、行政施策面と運営面から「やちほの家」の開設の意義と効果について検証した。旧八千穂村の福祉施策は介護予防に加え在宅支援に重点を置いてきた。その結果、要介護認定率は県平均より低く、在宅給付率は平成16年以降50%を超えている。また宅老所の開設によって介護保険給付率が上昇したが、平成15年の第二次介護保険計画と実績の比較は適正であった。一方「やちほの家」では、6例の若年性認知症者と畑づくりや食事づくりといった生活労働を基盤にしたケアをスタートし、徹底した生活ケアにより認知症者の在宅期間の延長と入院予防に効果があり、柔軟的なサービスの提供は家族の安心感に繋がった。また、地域の中の一軒家という住民の身近な場所でケアを実践したことで、地元の関心と協力が得られ延べ4万人が訪れた。その結果、利用希望者は開所時から順調に伸び、1日平均利用者は現在10人で、開設年度を除き毎年黒字経営となっている。また、母体の24時間の医療体制もあり、医療依存度の高い要介護者が増加している。一方要介護度の重度化に伴い、短期入所の利用率も増加傾向である。「やちほの家」として認知症者の安定した生活と、柔軟的な家族支援に対応するためには、「通って泊まれる」本来の宅老所の活動への期待は大きいと考えられる。また、地域住民が住み慣れた場所で生活を守るためには、地域住民のニーズを把握し「介護は身近な出来事」として住民意識の啓発が必要であり、住民、行政、病院が共同体としてシステムの構築をしていく視点が重要であり今後の課題となる。

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© 2010 一般社団法人 日本農村医学会
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