早期前立腺癌の治療に手術(前立腺全摘除術)は根治性が高く、有用な方法として確立された評価を得ているが、術後尿失禁と男性機能障害という合併症が解決すべき課題とされている。近年の前立腺に関する外科的解剖学の進歩から、前立腺を覆う前立腺筋膜は前立腺側面から全面にかけて広く分布する神経のネットワークを含み、勃起機能及び尿禁制に深く関与していることが明らかとなってきた。我々は、前立腺筋膜を温存するいわゆるVeil of Aphrodite法が、術後の尿禁制を改善するかについて検討した。対象と方法:限局性前立腺癌患者29例に対し片側(15例)、両側(14例)のVeil of Aphrodite法恥骨後式前立腺全摘除術を施行した。病理組織学的には、前立腺前面から側面のMargin clearance(標本断端から正常前立腺組織または癌組織までの距離)と、S100免疫染色を用いた前立腺被膜外の神経束数を測定した。尿失禁の改善度は尿道カテーテル抜去1週間後の24時間pad testで評価した。結果:片側と両側との間に神経温存と尿失禁に有意な関係は認められなかった。Margin clearance はVeil側で平均0.35mm、神経非温存側では平均1.84mmであった。断端陽性は5例(17.2%)に認められた。神経束数はそれぞれ平均1.7、平均11.2であった。カテーテル抜去後1週間の24時間尿失禁量は平均59.6gであり、神経束数と尿失禁量は有意に相関した。結論:前立腺筋膜温存法は、実質に切り込まないように慎重に行うことで断端陽性率が高くなることは避けることができ、術後の尿失禁は早期に改善されると考えられた。尿失禁及び男性機能について長期的な視点から検討を進めてゆきたい。