日本農村医学会学術総会抄録集
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第60回日本農村医学会学術総会
セッションID: S1-4
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地域医療の現状―中小病院の立場から―
*齋藤 公志郎矢島 昌夫
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キーワード: シンポジウムI
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抄録

 西美濃厚生病院は岐阜県の西南濃地域に存在する岐阜県厚生連の一病院です。総病床数は315床で,診療圏には比較的に多くの農村地域が含まれています。病院規模からも典型的な地域の中小病院であると考えられます。さて,近年日本の各地域で医療の崩壊という言葉がしばしば使われるようになりました。個人的には,これはあまりにも刺激的な物の言いようでして,一概に賛同はしかねています。ただ全国的に,特に大都市以外の地域に存在する,いわゆる中小病院の経営状態が非常に悪化していることは事実です。当院も同様に最近は色々な面から大変な苦境に面して います。その現状とそれに対して実施した方策を報告いたします。
 近年の当院における大きな問題点は,要約すると3つあります。1)勤務医および看護師の不足,2)診療報酬の不足,3)大病院指向(患者意思,医療施策)
 これらの問題により当院では経営に困難を覚えるようになり,また提供可能な医療の質および量の低下を来たすこととなりました。具体的には常勤医師数は平成10年には23人,平成23年で22人であり,極僅かに減少しただけです。しかし,この間には色々な曲折があり,医師確保には院長として大変苦労いたしました。また以前とは異なり婦人科と耳鼻科が非常勤となり,小児科もフルの常勤体制とは言えなくなっています。
 外来患者数は平成13年度をピークとして平成21年度には,最高時の61%までに減少しました。これには病診連携などにより,外来診療における当院の役割分担の見直しなどが影響しています。したがって,ある意味では目的通りの動きでした。
 一方,入院患者数は平成21年度には,ピークであった平成17年度の90%までに低下しました。さらに全身麻酔下の手術件数の減少などに象徴される診療内容の低下なども重なり入院収益は87%までに低下しました。このような事から病院の収益も減少しました。今後の大型医療器械および施設の更新購入などに多額の出費が予想されるなか,なんらかの病院運営形態の改善が必要と考えられました。
 一般病床の稼働率が不良なことより,当院では平成22年度に病床の再編を行いました。DPC 対応の一般病床を250床から187床に減じ,療養病床を65床から128床に増しました。これにより診療報酬上獲得できた諸加算の影響のため病院収益は増加して,経営的にも改善されました。
 しかし,このような対策には限りがあります。来年度の診療報酬改定がいかなる影響をもたらすかは不明です。さらに医療の進歩に応えるためには,本来なら医師を増加する必要がありますが,増員は今はまだ困難です。当地域での医療ニーズ(救急医療も含めて)に応えるためには,医師確保の方策や病院の運営形態など,色々な点での抜本的な改革が必要だと考えています。

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© 2011 一般社団法人 日本農村医学会
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