日本農芸化学会誌
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日本産介殻虫の化學的研究(第十二報)
ヤノネカヒガラムシ(Prontaspis Yanonensis Kuw.)の炭水化物並に蝋質物に就いて
河野 通男丸山 隆之輔
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1936 年 12 巻 7 号 p. 523-530

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抄録

ヤノネカヒガラムシよりは炭水化物としてLignin, Cellulose, Pentosan等を檢出せり.而してGalactan, Mannanの存在は痕跡に止れり.
これ等の成分はフジツボカヒガラムシ,モミヂノワタカヒガラムシ及びイセリヤカヒガラムシと共通に證明せる成分なり.煤病菌の培養基並に蟻の如き昆虫の誘引物と想はるゝ虫體D分泌物中の糖分の檢出を試みしも本昆虫に於ては含量極めて少きため分離は不可能に終れり.
蝋質物中の成分としては水蒸氣蒸溜物としてResinol C10H18O,(後出のResinolに一致すと考へらる)Ceryl alc., Cerotic acid, Lauric acid, Melissyl alc. Melissic acid並に樹脂成分として未知Resinol C10H18Oを單離せり.中Ceryl alc. Cerotic acid及びMelissic acidは本報迄に分離せる共通成分にしてMelissyl alc. Lauric acidは本昆虫に於て初めて檢出せる新成分なり.
本昆虫に於ては樹脂酸の存在は認めざりき.只ResinolとしてC10H18Oに相當するものを得たり.本成分の諸性質に相當する既載の文獻なく未知物質と想はるも試料不足にて精査を進むることを得ざりき.
尚上の分離せる結果より考察するにその結合の状態は大部分はCeryl cerotate, Melissyl melissiateの二エステルより構成せらるゝものと推定せらる.第十報と綜合するにヤノネカヒガラムシは既報のフジツボカヒガラムシ,モミヂノワタカヒガラムシ並にイセリヤカヒガラムシと同樣主として無水硅酸,硬蛋白質,木質,纖維素並に蝋質物が複雜なる結合をなして存在するものなることを確認せり.
稿を終るに當り御指導と御校閲を賜ふ恩師鈴木文助教授に感謝を捧ぐると共に便宜と激勵を蒙りし工場長伊庭野薫氏,支店長高橋清氏,試料に對し多大の配慮を得し長崎税關田中植物檢査課長,静岡縣農事試験場柑橘病虫害研究所野口主任に茲に厚く謝意を表す.

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