日本農芸化学会誌
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殼斗科種實(どんぐり)の酒精原料價値に就て 第1報 酸糖化法
杉崎 正作
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1939 年 15 巻 12 号 p. 1173-1178

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抄録

(1) 殻斗科種實(どんぐり)白樫の一般成分を調べた.種皮と胚乳の重量比は約2:8で,胚乳の水分は37~38%であつた.從つて全粒の約50%が胚乳乾燥物でそのうち約70%が澱粉及び可溶性糖分であることを確めた.即ち種皮を除き,全粒重量に對し約35%の澱粉質物を含むことになる.
(2) どんぐりの胚乳を豫め温重曹水で處理することによつて,硫酸糖化の蒸煮壓力及び蒸煮時間を著しく短縮することが出來る.即ち無處理胚乳の糖化に對しては0.8%硫酸6倍量を用ひ60lb 60分加熱を適當とするが,温重曹水處理のものに對しては0.8%硫酸5倍量50lb 30分若くは40lb 50分加熱を適當とする.
(3) 胚乳を無處理のもの,重曹水處理のものとに分けて夫々の最適糖化條件で硫酸糖化を行つた物料に對する酵母の態度を試驗した.共の結果Brennereihefe No. 30は原料の處理の如何に拘らずよく繁殖し且つ醗酵作用を營むことを確めた.之に反し,黴類及びバクテリア類は何れの原料に對しても繁殖惡く醗酵作用も微弱であつた.即ち酵母はどんぐり單寧の障害作用を受けることが少ないと言へる.
(4) 上記の條件で硫酸糖化を行つた物料をBrennereihefe No. 30を用ひて醗酵せしめ,重曹水處理の原料に於て約80.4%の醗酵歩合を,無處理の原料に於て約77.8%の醗酵歩合を得た.
(5) 補給窒素源として,硫安,米糠,魚粉,大豆粕,麸を用ひたが,麸と大豆粕が最高の醗酵歩合を示した.
(6) 醗酵微生物に及ぼすタンニンの影響を試驗した. Rhizopus javanicusはタンニンを0.3%含む麹エキス中で全く繁殖しないが,Brennereihefe No. 30はタンニン1.2~1.3%を含む麹エキス中でも尚僅かながら醗酵作用を營む.
終りに臨み本實驗の御指導を賜はつた坂口謹一郎先生並に朝井勇宣先生に愼んで深謝の意を表す.實驗中種々御援助を得た僚友山田武雄氏に厚く感謝す.尚本研究は農村工業協會並びに三井報恩會の御援助に依るもので記して感謝の意を表す.

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