日本農芸化学会誌
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カゼインの分散状態におよぼす溶融塩の效果
巽 清大場 省三中島 一郎篠原 邦晴川西 悟生
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1975 年 49 巻 9 号 p. 481-489

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抄録

プロセスチーズのテクスチュアーにおよぼす溶融塩の効果を解明するため,カゼインに各種の溶融塩を作用させ,その分散状態の変化を紫外吸收差スペクトル法および超遠心分析法により検討した.
(1) Naカゼインに対する作用:オルソおよびクエン酸ナトリウムの添加により,カゼインは凝集したが,これらの溶融塩は電解質であるためにイオン強度を高めることとなり,その結果イオン強度上昇によるカゼインの凝集が起ったものと考えられた.一方,メタおよびポリメタのような高重合リン酸塩系溶融塩は,カゼインを分散させる作用を有していた.この作用は,これら溶融塩がポリアニオンとしてカゼイン分子上の正電荷の局在する部分に静電的に結合し,カゼイン分子の荷電状態を変化させることによるものと考えた.この分散力は,重合度の高いものほど強いことが確認された.重合度の比較的低い,ピロ,トリポリおよびテトラポリは,低濃度では分散力,高濃度では凝集力を示した.これは溶融塩の重合度に応じた分散力と,それ自身のイオン強度にもとづく凝集力の両作用が,競合的に寄与するためと考えられた.
(2) Caカゼインに対する作用:オルソを除いてすべての溶融塩は, Ca捕捉作用によりCaカゼインをNaカゼインへ変換させ,その結果Caカゼインを分散させた.また,高濃度に加えた場合には, Naカゼインの状態以上に分散させるものと,それ以上には分散させえない溶融塩とがあり,前者はメタおよびポリメタ,後者はピロ,トリポリ,テトラポリおよびクエン酸ナトリウムであった.これはCa捕捉作用の差とは別に, Naカゼインに対する分散力の差が原因となっていると思われた.オルソは特異的な現象を示し,一部の濃度範囲でCaカゼインを極度に高重合化さ〓,カルシウム・リン酸複合体によるカゼイン分子間の架橋形成の可能性が考えられた.

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