抄録
本報告論文の目的は,通商規律としてのGATT/WTO貿易ルールと市場機能の関係について論ずることにある.GATT/WTOの目的は市場メカニズムを利用した自由貿易の促進であり,競争均衡はパレート最適な資源配分を導くという厚生経済学の基本定理に基づくものである.実際の市場構造を展望すると,我々の住む社会には数多くの市場が存在しており,これらすべての市場が完全競争市場の前提条件を満たすとは考えられない.貿易の自由化の経済厚生への影響を考える場合でも,国内の農地市場や労働市場,さらには外部性など,様々な条件が必要になってくる.通商規律についても,自由貿易協定や国家独占企業が例外規定として認められており,貿易転換効果や国家独占企業の市場支配力により厚生損失が発生する可能性が大きい.長期的にはこれらのディストーションを取り除く必要がある.通商規律に準拠する形で国内政策を変更する場合,短・中期的には,ディストーションの存在や実態と整合的な競争市場を考慮して経済厚生の評価を行う必要がある.特に,国際市場構造を特定化する計量経済学的研究が少ないため,これらの実証研究を蓄積することが必要である.