農業経済研究
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農地・構造政策と農地集積
藤栄 剛
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2016 年 88 巻 1 号 p. 67-82

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抄録

本稿では,2000・2005・2010年の農業センサスならびに集落営農に関するパネルデータを用いて,農地・構造政策が農地集積に及ぼす影響を検討した.ここでは,特に農地集積のための手段としての認定農業者制度,家族経営の法人化,集落営農組織の法人化に着目した.また,検討に際しては,施策の評価に伴う自己選択の問題に対処するために,傾向スコアマッチングならびに差分の差の傾向スコアマッチングを用いた.本稿で得られた主な知見は次のとおりである.第1に,1990年代以降,わが国の経営耕地面積規模の二極化が進むとともに,大規模層への農地集積が進んだ.第2に,差分の差の傾向スコアマッチングの結果は,認定農業者制度が全ての地域で農地集積を促進する効果をもたらしたことを示唆している.他方,家族経営の法人化には,農地集積の効果はみられなかった.第3に,集落営農の法人化は,設立時期に応じて,農地集積に対する効果は異なった.主体的な組織化が中心とされる2005年以前に設立された集落営農では,多くの地域で法人化による農地集積効果が確認された.一方,2006年以後に設立された集落営農では,法人化による農地集積効果は大半の地域で検出されなかった.こうした結果は,農地集積に対する農業構造政策の効果が政策手段に応じて異なり,認定農業者制度が日本農業の構造改善に効果的に寄与した可能性を裏付けている.本稿は,農林業センサスのほぼ全てのパネルデータを用いた,日本農業の構造改善施策に関する初めての政策効果分析である.今後の研究として,ミクロデータを用いたエビデンスレベルの高い研究が求められている.

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© 2016 日本農業経済学会
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