抄録
本稿の課題は,雇用劣化が進む地域労働市場における農業構造の実態と雇用型法人経営の展開論理を明らかにすることである.方法は長野県上伊那郡中川村Y集落を事例とした賃金構造分析と法人経営の就業条件の比較分析である.結果,青壮年男子農家世帯員に単純労働賃金水準の非年功型雇用が層として存在していた.しかし,そういった労働力が農業へ回帰する動向は例外的で,対象世帯では規模縮小や離農が進んでいた.こうした状況下で,雇用型法人経営は,一方では複雑労働に従事する者に農外の年功賃金で就業する者の賃金水準に比肩あるいは凌駕する水準の賃金・報酬を支払っていたが,他方には単純労働賃金で就業する労働力が存在していた.雇用型法人経営は雇用劣化に立脚する形で展開しているのである.