2020 年 92 巻 3 号 p. 262-268
農山村社会の存続が日本社会全体の存続にとっても不可欠であるという前提のもとで,多くの論者がその発展方策に取り組んできたが,それらの多くでは,人と資源利用の内発性や自律性を有しつつ小さいけれども特筆すべき試みこそが進むべき道標として示されてきた.こうしたニッチな事例から変化がしだいに浸透し拡大していくという考え方とは別に,明確な目標を定めて政策的に介入することにより農山村社会の再生を図る道もある.バックキャスティングは30年後程度の遠い未来の目標を設定し,それに向かって政策を収斂させていくという計画手法である.バックキャスティングにはシナリオ構築がセットとなる.このコメントでは4つのシナリオを設定し,そのうち「土付きにんじん」とよぶものが最良だと判断した.バックキャスティングを国あるいは地方の政策に取り入れるためには,シナリオを構築して最終目標を設定する有識者によるステークホルダー会議の開催がまずは必須であり,それが喫緊の課題である農山村社会再生へのプロセスの第一歩となる.