抄録
本稿は,1990年代後半以降のベトナムの農業・農村の近代化・工業化政策推進下において,特に紅河デルタ地域の稲作農業と零細小規模農家の経済に生じた変化の状況を検討した.主な結論は次の2点である.第1に,過去20年間における稲作農業の構造変化に関しては,既存統計によって,紅河デルタでは,稲作農家数の顕著な減少とそれが1戸当たり経営規模の拡大に結びついていない状況が指摘できた.第2に,特に工業団地開発のため農地収用に直面した紅河デルタの都市近郊農村の事例では,地域労働市場の展開に伴う若年労働力を中心とする他産業従事の増大によって,農家経済の面で農業所得の地位が大きく低下し,農業からの離脱が顕著に進行している傾向のあることを指摘した。