看護薬理学カンファレンス
Online ISSN : 2435-8460
2021仙台
セッションID: 2021.3_ES-2
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看護薬理学教育セミナー2
眠るための薬、眠らせるための薬 〜睡眠・鎮静・麻酔〜
中村 正帆
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抄録

ヒトは人生の3 分の1の時間を眠って過ごすといわれています。では、なぜ眠らなければならないのでしょうか?この問いに対する完全な解答はまだ得られていませんが、睡眠が恒常性維持にとても重要であるためだと考えられています。例えば、睡眠が記憶学習や免疫機能を調節したり、脳内から老廃物の排泄を促進したりすることが、近年の研究から明らかになっています[1]。また、不適切な睡眠や睡眠不足によって、肥満や糖尿病、心血管疾患、うつ病、アルツハイマー病が増加・悪化することも知られています[1, 2]。

睡眠にはレム睡眠とノンレム睡眠があり、眠っている間はこの 2 つの睡眠状態を行き来します[3]。このレム睡眠とノンレム睡眠の移行には、視床下部や脳幹に局在する神 経細胞が重要な役割を果たしています[3,4]。加えて、睡眠と覚醒の移行には、GABA、 オレキシン、メラトニン、ヒスタミン、ノルアドレナリンなどの神経細胞が深く関わってい ます[4]。従って、これらの神経細胞の機能に異常が起きると、不眠症などの睡眠障害 が引き起こされると考えられます。

日本人(15 歳以上)の平均睡眠時間は 7 時間 39 分で、世界の中では睡眠時間が最も短い国の一つです[5]。さらに、本邦の睡眠障害の有症状率は 15−25%、不眠症の罹患率は6-8%とされます[6]。睡眠障害の治療には、認知行動療法などの非薬物療法と、睡眠薬投与などの薬物療法があります。このうち薬物療法では、ベンゾジアゼピン、オレキシン受容体拮抗薬、メラトニン受容体作動薬、抗うつ薬、抗ヒスタミン薬などが用 いられます[7]。

本セミナーでは、上記のこれまで明らかになっている睡眠の仕組みや疾患との関わりと合わせて、睡眠障害の治療に用いられる薬物の薬理作用について概説します。さらに生理的な睡眠と類似する現象として、薬物による鎮静と全身麻酔について取り上げ [8]、鎮静中や全身麻酔後にベッドサイドで観察すべき点なども共有します。複雑に見える睡眠薬や鎮静薬の薬理作用を紐解き、日々の看護に役立つような情報を提供した いと考えています。

参考文献

[1] Nedergaard M, et al. Science. 370:50-56 (2020)

[2] Knutson KL, et al. Arch Intern Med.;166:1768-74 (2006) [3] 髙木眞莉奈他 .生化学 . 89:911-916 (2017)

[4] Scammell TE, et al. Neuron. 93:747-765 (2017) [5] 厚生労働省 平成 26年度版厚生労働白書

[6] Doi Y, et al. J Epidemiol. 10:79-86 (2000)

[7] 厚生労働科学研究班 睡眠薬の適正な使用と休薬のための診療ガイドライン (2013) [8] Brown EN, et al. NEngl J Med. 363(27):2638-50 (2010)

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© 2021 本論文著者
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