社会の高齢化が進む今、病気の治療だけでなくセルフメディケーションへの関心が増している。我々は「健康長寿に資する和漢薬研究」を確立すべく、基礎研究と臨床研究を並行させている。臨床エビデンスは医薬品開発を推進するために必須 であると同時に、基礎研究の狙いが正しかったかを検証することにもなる。我々は食薬区分や天然物医薬品の承認規制の現状を把握しながら、複数の出口に向け た社会実装を目指している。
“神経回路網の破綻を食い止め修復することが、認知機能の回復にとって決定 的に重要である”という考えに基づいて研究を進め、我々は天然物由来の化合物であるジオスゲニンに軸索再伸長作用があることを見出した。記憶障害発症後の アルツハイマー病モデルマウスにジオスゲニンを投与すると記憶能力が回復した。ジオスゲニンの受容体タンパク質と分子メカニズムを明らかにし、この機構によって、マウス脳内でいったん萎縮した軸索が正しい方向に再伸長できることを証明した。
ジオスゲニンは生薬サンヤクの成分として知られている。山薬は食薬区分では非 医に区分されることを利用して、健常人でのランダム化二重盲検試験に進んだ。ジオスゲニン高濃度サンヤクエキスの12 週間服用により、プラセボ群と比較して有意 な認知機能の向上が示された。さらに軽度認知障害および軽度アルツハイマー型認知症患者に対する同エキスの効果を特定臨床研究ランダム化二重盲検試験で 検討し、認知機能改善効果を確認した。
運動機能に有効な生薬研究では、ニクジュヨウエキスに、軸索伸展作用や骨格 筋活性化作用を見出した。例えばニクジュヨウエキスは、サルコペニアマウスモデルの歩行機能改善や、脊髄損傷慢性期マウスの運動機能と脊髄中の軸索密度改 善に有効であった。さらには、頚椎症性脊髄症患者での特定臨床研究ランダム化二重盲検試験を実施し、ニクジュヨウエキスによって感覚機能と下肢の運動機能 に有意な改善が認められることを明らかにした。
天然物には有効性と安全性が際立った非常に魅力的な素材が数多くある。 質の高い作用機序研究と、臨床研究でのエビデンス獲得を並行できる和漢薬研究は、新しい健康維持素材、予防薬、医薬品といった幅広いシーンをカバー する、インパクトの大きな取り組みである。
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