看護薬理学カンファレンス
Online ISSN : 2435-8460
最新号
選択された号の論文の8件中1~8を表示しています
シンポジウム1 在宅における認知症ケアの服薬管理と評価のベストプラクティス
  • 三澤 裕美
    セッションID: 2026.1_S1-1
    発行日: 2026年
    公開日: 2026/03/15
    会議録・要旨集 オープンアクセス

    慢性心不全の管理において体液コントロールは不可欠であり、従来は体重が主要な客観的指標として用いられてきました。特に在宅ケアでは、即時に取得可能な客観的指標が限られるため、体重に依存した評価が行われる傾向があります。 しかし近年、体重に偏重したモニタリングには限界があると報告されるようになりました。具体的には、体重は浮腫や栄養状態の変化に左右されやすいため、体液 量に関する的確な判断を阻害し、適切なケアを遅らせる一因になるという指摘です。そこで、より精密に水分分布を評価可能な生体インピーダンス法(bioimpedanceanalysis;BIA)の有用性が報告されてきています。これらの知見を踏まえ、当事 業所では心不全患者に対して BIAによる継続的な体組成測定を実施し、心不全で特に問題となる体液過剰の早期発見と生活調整を含むケアの最適化に取り組 んでいます。

    さらに私達は、体組成測定が体液評価にとどまらず、認知症を併発した独居高 齢心不全患者における服薬管理にも有効である手応えを臨床現場で得ました。慢性心不全のケアでは服薬アドヒアランスの評価が不可欠です。しかし、心不全患 者が認知症を併存していたり、独居の場合には内服状況を常時直接的に把握することが困難な場合が多く、実際の服薬アドヒアランスの評価は曖昧になりがち です。今回ご紹介する事例は、症状の改善がみられず悪化の傾向があったため、私達医療者は当初、利用者の認知機能低下による服薬アドヒアランス不良を安易 に疑いました。しかし、体組成測定を実施し客観的データを活用しアセスメントを追求したところ、服薬アドヒアランスは保たれており不調の原因は家屋環境による 室温低下が原因の可能性があるとわかったのです。得られる客観的指標が限られる在宅ケアにおける安易なアセスメントは、治療の障害になるだけでなく利用者の 尊厳を脅かす事態を招くことを痛感しました。

    このシンポジウムでは、当事業所が経験した体組成データを活用した服薬支援 の一事例の紹介を通して、在宅ケアに導入可能な客観的指標の有用性について考える機会になればと思います。

  • 星 利佳
    セッションID: 2026.1_S1-2
    発行日: 2026年
    公開日: 2026/03/15
    会議録・要旨集 オープンアクセス

    在宅における認知症ケアでは、薬物療法は重要な柱である一方、その効果や評価の難しさから支援者の葛藤も少なくない。本発表では、在宅現場で薬剤師として関わる中で見えてきた「薬物療法のリアル」を共有する。

    まず、認知症と診断されたときの本人の衝撃や不安、否認、家族の戸惑いといっ た心理的側面に触れたい。診断直後の思いを十分に受け止めないまま治療が開始されると、薬物療法への理解や納得が不十分となり、服薬継続が困難になること もある。薬物治療の目的は「進行を遅らせる」「周辺症状を和らげる」といったものであり、劇的な改善が見えにくい。そのため、本人・家族のみならず支援者側も「効 いているのか分からない」という迷いを抱えやすい。

    評価の指標が曖昧なまま関わり続けることは、支援者のバーンアウトにもつな がる。特に在宅では、生活全体の中で薬の位置づけを考える必要があり、単なる処方確認にとどまらない視点が求められる。

    一方で、服薬アドヒアランス向上には工夫の余地がある。生活リズムに合わせ た剤形選択や服薬支援ツールの活用、成功体験を共有する声かけ、家族の負担軽減を意識した提案など、実践的な「技」を紹介する。また、薬剤師単独では限 界があり、看護師・医師・ケアマネジャーらとの情報共有と役割分担が治療への前向きな姿勢を引き出す鍵となる。

    本発表では、薬物療法を「続けられる支援」へと転換するために、多職種のつ ながりがいかに突破口となり得るかを、具体的事例を交えて考察する。

  • 志田 淳子
    セッションID: 2026.1_S1-3
    発行日: 2026年
    公開日: 2026/03/15
    会議録・要旨集 オープンアクセス

    在宅で認知症患者の服薬評価を行うとき、私たちはしばしば壁にぶつかります。本人は不快な症状があったとしても具体的な困りごとを明確に言葉にできず、家族も「最近なんとなく不安定」としか語れない場合が少なくありません。結果として、症状の 変化が認知症の進行なのか、体の具合が悪いのかの見極めが難しくなります。さらに、在宅では即時に活用可能な客観的指標が限られるため、薬効評価も曖昧になりやす い現状があります。そもそも「薬はちゃんと飲めているのだろうか?」という療養の根幹が揺らぐことすらあります。こうした不確実な情報の中で臨床判断に困難を感じることがありますが、実は「本人が何も語っていないのではなく、私たちがその『身体の語り』を受け取れていない」のかもしれません。

    認知症患者には糖尿病、高血圧、心不全などの併存疾患が多く、これらの病態変 化は、不安、不眠、興奮、徘徊、妄想といった周辺症状として表面化することがあります。つまり、認知症ケアは認知症のみを見ていては成立せず、身体の変化が行動や表 情、生活リズムに影響している可能性を常に考える必要があります。しかし、本人が語れない/語らないときほど臨床判断は難しく、「認知症が進んでいるのだろう」と結 論づけてしまう危うさがあります。

    以 上 の 課 題 を 整 理 し、本 発 表 で は 体 組 成 測 定(Bioelectrical ImpedanceAnalysis:BIA)を、在宅ケアにおける新たな評価軸として提案します。BIA は体液分布や細胞内外水分バランスを可視化し、「症状として現れた変化」より前にある「構 造としての変化」を捉えることが可能です。それには、得られたデータをどう活用するかが重要であり、基準値のみで判断するのではなく、その人の経過を可視化して症状や生活状況と重ねてアセスメントすることによって、“いつも”からの逸脱が見えやすくなります。

    さらに、BIA データをケアチーム全体で共有することも重要です。BIAのデータを 客観的な裏付けとすることで、「薬は確実に服用されている」「その結果として身体が安定している」等の確信をもったアセスメントが可能となり、適切な薬剤調整と生活の 安定につながります。観察に限界があり、症状表現があいまいであっても、チームの迷いと不安を減らし、共通言語として機能していくのです。身体の語りを消さずに拾い 上げる評価軸は、言葉を失いつつある本人の存在そのものを尊重し、勘と経験に頼るケアから根拠と確信に基づくケアへと私たちを導きます。身体の語りを共通言語として共有することが、多職種チームの判断を支え、在宅生活の安定とQOLを支えることを少しでも実感いただければ幸いです。

シンポジウム2 創傷・褥瘡管理における感染対策のupdate2026、そして残された課題
  • 武藤 理恵
    セッションID: 2026.1_S2-1
    発行日: 2026年
    公開日: 2026/03/15
    会議録・要旨集 オープンアクセス

    褥瘡の保存的治療は moist wound healing (湿潤環境下療法)の考え方に基づき行われる。滲出液に含まれる多核白血球、マクロファージ、酵素、細胞増殖因子などを創面に保持することにより、壊死組織の自己融解を促進し、細胞 遊走を妨げない環境が作られ、これが褥瘡治癒に有利に働くためと考えられる。ただし、単純に湿潤環境の保持のみを目標とすべきではない。滲出液が過剰に なると肉芽が浮腫状に変化し、創傷治癒遅延や感染の原因になる。したがって、定期的に滲出液の量や性状、創部の状態などをアセスメントしながら、適切な 湿潤状態になるように対応するwound bed preparation(創の環境を整えていく こと)が重要であり、これには外用剤が大きな役割を果たす。内服剤同様、褥瘡治療に用いる外用剤も主剤の薬理効果を期待して使用するが、その選択には注 意すべき点がある。一般的に外用剤には主剤はわずかにしか含まれず、大部分は主剤を保持し体表面から吸収させるための基剤から構成されている。この基 剤は水溶性、乳剤性、油脂性の 3 種類に大別され、創部からの滲出液に対してそれぞれ異なる作用を持つ。外用剤を褥瘡治療に使用する場合、主剤の効果に着目することはもちろん、基剤の特性をよく考慮する必要がある。加えて、単純に『薬を塗布する』だけではなく、創部の状態に適した薬剤の選択、および薬剤がその薬効を効果的に発揮できる環境を整えることが重要である。

    近年、薬剤の不適切な使用が褥瘡発生の原因となった症例が報告され、薬剤 関連褥瘡という概念が注目されつつある。さらに令和 4 年度の診療報酬改定では、入院基本料に係る褥瘡対策として診療計画に「薬学的管理に関する事項」 が追加された。薬剤師には、これまでの薬物治療だけではなく、褥瘡発生のリスクが高まる薬剤や疾患への対応、栄養管理等、褥瘡予防における関わりがこれ まで以上に求められている。本発表では臨床での薬剤師の実際の取り組みを通じ、今後の褥瘡対策における薬剤師の役割とこれからのチーム医療について考えたい。

  • 大網 さおり
    セッションID: 2026.1_S2-2
    発行日: 2026年
    公開日: 2026/03/15
    会議録・要旨集 オープンアクセス

    地域包括ケアシステムの推進に伴い、在宅褥瘡保有者への対応は増加しており、在宅療養を支える訪問看護師が提供するケアおよび在宅における褥瘡管理の質向上が求められている。質の高いケアを提供できる認定看護師による同行訪問 は 2012年より開始されたが、病院所属の認定看護師が地域へ活動を十分に展開することは困難な状況が続いていた。近年、施設内に同領域の認定看護師が複数配置されたことで、同行訪問への出向や在宅領域へ活動を広げる体制が整備され つつある。

    2025 年時点における宮城県の高齢化率は 29.7%と過去最高値を更新しており、 仙台市においても25.4%と65 歳以上人口が約 4分の1を占めている。さらに 2050 年には 39.4%に達すると予測されており、超高齢社会の進行は一層加速する見込みである。このような人口構造の変化は、在宅療養者の増加および在宅における 褥瘡管理体制の強化をより一層必要とする状況を示している。

    当院は仙台市南東部に位置し、仙台市太白区・名取市・岩沼市を診療圏とする196 床の急性期病棟および地域包括ケア病棟を有する一般急性期病院である。 JCHOの使命である「地域医療および地域包括ケアの要として地域住民の生活を 支える」役割を踏まえ、2019 年より地域における皮膚・排泄ケア領域の質向上を目的に認定看護師による同行訪問を開始した。これまでに17名、延べ 114 回の同 行訪問を実施している。

    同行訪問を通して、在宅では病院と比較し使用可能な創傷被覆材や薬剤の選 択肢が限られ、迅速な処置変更が困難である実態が明らかとなった。また、同一看護師が継続して関わることが難しいことから、感染兆候の早期発見が遅れる可 能性や、提供しているケアの妥当性に不安を抱えながら対応している訪問看護師が少なくない状況も認められた。

    本発表では、同行訪問の実践から見えてきた在宅創傷管理の課題を整理すると ともに、皮膚・排泄ケア認定看護師(WOC)の立場から、在宅環境で押さえるべき創傷管理および感染対策の要点を提示し、地域における褥瘡管理の質向上に向けた支援のあり方について考察する。

  • 伊師 森葉
    セッションID: 2026.1_S2-3
    発行日: 2026年
    公開日: 2026/03/15
    会議録・要旨集 オープンアクセス

    高齢化の進行や生活習慣病の増加に伴い、糖尿病性足壊疽や褥瘡をはじめとする難治性潰瘍は増加傾向にある。近年、創傷治療は多様化しており、局所陰圧閉鎖療法(NPWT)などの機器を用いた治療や、多血小板血 漿(PRP)など再生医療技術も保険収載され、選択肢は拡大している。しかしながら、すべての創傷に適応可能な万能な治療法は存在せず、最適な治 療を選択する判断力がより一層求められている。加えて、創部の状態や全身状態を的確にアセスメントし、感染徴候を早期に捉えることはますます重要 となっている。

    本シンポジウムでは、創部感染を来さないための予防的介入を中心に、日 常診療で実践している工夫について述べる。急性創傷、慢性創傷・難治性潰瘍、周術期管理など各状況に応じた対応を提示し、さらに感染を生じた 場合の初期対応および感染後管理についても、実際の症例を交えて考察する。創傷管理における感染対策の実践的ポイントを共有したい。

看護薬理学教育セミナー 認知症やサルコペニアの予防と治療に向けた天然物の薬理・社会実装研究
  • 東田 千尋
    セッションID: 2026.1_ES
    発行日: 2026年
    公開日: 2026/03/15
    会議録・要旨集 オープンアクセス

    社会の高齢化が進む今、病気の治療だけでなくセルフメディケーションへの関心が増している。我々は「健康長寿に資する和漢薬研究」を確立すべく、基礎研究と臨床研究を並行させている。臨床エビデンスは医薬品開発を推進するために必須 であると同時に、基礎研究の狙いが正しかったかを検証することにもなる。我々は食薬区分や天然物医薬品の承認規制の現状を把握しながら、複数の出口に向け た社会実装を目指している。

    “神経回路網の破綻を食い止め修復することが、認知機能の回復にとって決定 的に重要である”という考えに基づいて研究を進め、我々は天然物由来の化合物であるジオスゲニンに軸索再伸長作用があることを見出した。記憶障害発症後の アルツハイマー病モデルマウスにジオスゲニンを投与すると記憶能力が回復した。ジオスゲニンの受容体タンパク質と分子メカニズムを明らかにし、この機構によって、マウス脳内でいったん萎縮した軸索が正しい方向に再伸長できることを証明した。

    ジオスゲニンは生薬サンヤクの成分として知られている。山薬は食薬区分では非 医に区分されることを利用して、健常人でのランダム化二重盲検試験に進んだ。ジオスゲニン高濃度サンヤクエキスの12 週間服用により、プラセボ群と比較して有意 な認知機能の向上が示された。さらに軽度認知障害および軽度アルツハイマー型認知症患者に対する同エキスの効果を特定臨床研究ランダム化二重盲検試験で 検討し、認知機能改善効果を確認した。

    運動機能に有効な生薬研究では、ニクジュヨウエキスに、軸索伸展作用や骨格 筋活性化作用を見出した。例えばニクジュヨウエキスは、サルコペニアマウスモデルの歩行機能改善や、脊髄損傷慢性期マウスの運動機能と脊髄中の軸索密度改 善に有効であった。さらには、頚椎症性脊髄症患者での特定臨床研究ランダム化二重盲検試験を実施し、ニクジュヨウエキスによって感覚機能と下肢の運動機能 に有意な改善が認められることを明らかにした。

    天然物には有効性と安全性が際立った非常に魅力的な素材が数多くある。 質の高い作用機序研究と、臨床研究でのエビデンス獲得を並行できる和漢薬研究は、新しい健康維持素材、予防薬、医薬品といった幅広いシーンをカバー する、インパクトの大きな取り組みである。

抄録集
feedback
Top