抄録
[目的] 最も高発(約30%)な脳腫瘍であり放射線抵抗性としても知られる異形性グリオーマに対する、ヒ素による放射線増感効果のメカニズムを解析している。ヒ素は、異形性グリオーマに対してin vitro及びin vivoで相乗性の増感効果が示されている数少ない薬の一つである。しかし、その作用機序は不明な点が多い為、まずヒ素単独処理による解析を行ってきた。昨年にヒ素による老化様細胞増殖停止誘導に関連したヘテロクロマチン形成機構について報告した。本年度は、ヒ素による老化様細胞増殖停止誘導の原因について検証した。
[結果] 異形性グリオーマ細胞株U87MGに、ヒ素の単独処理による解析を行った。老化様細胞増殖停止の誘導を意味するヘテロクロマチン形成のマーカーのヒストンH3のリジン9のメチル化はDNAダメージにより引き起こされることが知られているので、γH2AX fociとヘテロクロマチン形成のマーカーのヒストンH3のリジン9のメチル化の二重染色を行った。その結果、ヒストンH3のメチル化は、γH2AX fociの検出された細胞に多く観察されたことから、ヒ素によるヘテロクロマチン形成は、DNAダメージにより引き起こされていることが強く示唆された。次に、老化様細胞増殖停止に関与することが知られているp16とp21経路に関して、異形性グリオーマではp16が欠損している為、残るp21の誘導に関してヒ素と放射線で比較した。その結果、約90%の細胞がcolonyを作らなくなる同じ条件であるが、明らかにp21の誘導は放射線に比較してヒ素の方が低い結果が得られた。このことはヒ素は放射線とは異なる、またp16やp21とも異なる未知の第三の経路で老化様細胞増殖停止を誘導していることを示唆していると思われる。この第三の経路がヒ素による放射線増感効果に関連しているのではと考えている。