看護薬理学カンファレンス
Online ISSN : 2435-8460
2022高知
セッションID: 2022.2_EL-1
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教育講演
からだの中の亜鉛の多彩な役割~褥瘡、授乳、神経機能~
*東 洋一郎
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抄録

亜鉛は体重 70kg の成人で 2g 程度しか存在しない微量な金属元素である。しかし、亜鉛は骨格筋をはじめ骨、皮膚、肝臓、脳、腎臓など生体内に広く分布し ており、欠乏すると味覚障害、夜盲症、成長障害、精神障害、免疫機能の低下などの様々な症状が引き起こされる。つまり、生体内の亜鉛は微量な金属元素では あるが、我々の健康と正常な生命活動を維持するために必要な栄養素であることを意味している。

最近、日本人の10 ~30% に亜鉛欠乏のリスクがあると報告され、特に高齢者 と乳児は亜鉛欠乏になりやすいと指摘されている。

高齢者の長期療養や在宅医療において褥瘡の予防・治療は解決すべき課題 である。一方、亜鉛は古くから皮膚の新陳代謝に作用し、創傷の修復を促進することが知られている。実際に、亜鉛補充療法により寝たきりの在宅患者の感染を 伴った褥瘡が数カ月で瘢痕化して治癒するなどの症例が報告されている。また、最近の基礎研究により損傷部位から刺激を受けた肥満細胞からの亜鉛放出が創 傷治癒の促進に関与していることが明らかにされている。

また、日本における1日亜鉛摂取推奨量は体重あたりに換算すると成人の約 3 倍であり、乳児期の健康な成長のためには亜鉛の摂取量に注意を払う必要がある。胎生期にける亜鉛の貯蔵は主に妊娠後期に行われる。そのため、早期産児 は亜鉛貯蔵が少ない状態で出生する。一方、分娩後数日間の初乳は血清より高濃度の亜鉛が含まれているが、数か月後には血清と同程度にまで低下する。した がって、早期産児で母乳哺育の場合、体重が急激に増加する生後 2~ 9カ月に亜鉛欠乏を起こしやすく、成長遅延や皮膚炎などの症状が現れる。最近、乳腺細 胞から乳汁中への亜鉛分泌を司る分子の変異が明らかになり、低亜鉛母乳の症例が日本でも報告されている。

脳神経系における亜鉛の役割も多彩である。げっ歯類の研究から亜鉛欠乏が うつ病の発症と関連していることが明らかになり、うつ病患者に対して亜鉛補充することで症状が緩和することも報告されている。また、亜鉛欠乏のみならず、脳 内の局所的な亜鉛濃度の増加が脳卒中後の認知症の発症に関与していること示す知見も報告されている。

本セッションでは、主に亜鉛欠乏によって引き起こされる臨床症状を説明しな がら、関連する最新の基礎研究の知見を分かり易く紹介することで、生体内亜鉛の多彩な役割に対する理解の一助になれば幸甚である。

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© 2022 本論文著者
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