主催: 看護薬理学カンファレンス
会議名: 看護薬理学カンファレンス 2023 in 神戸
回次: 2
開催地: 神戸
開催日: 2023/12/17
オーストラリアのPetros 教授が高齢社会の女性に多く見られる尿失禁等の婦人泌尿器疾患に診療の関心を持ち、インテグラル理論の発想が浮かんだのが今から51年前の話である。その時、彼が感銘を受けた解剖学のRobert Zachrin 博士は尿道周囲の靭帯や筋肉は尿禁制を維持するために重要な役割であることを報告していた。そしてその出会いが骨盤底機能においての膣とその支持靭帯の結合組織の役割への追求へとつながっていった。
そしてそれから約30 年後、彼はスエーデンのUlf Ulmsten 教授との出会いにより1990 年と1993 年に2回にわたり2人で骨盤底の障害の治療に大きな役割を果たすことになるインテグラル理論を発表した。その原理を彼らは「形態(構造)の修復は機能の修復につながる」とシンプルに述べている。その理論の説明は二つの比喩(アナロジー)がわかりやすい。骨盤底の構造は「吊り橋」に、機能に関しては「トランポリン」「帆船の帆」である。恥骨と仙骨の間にある膣も膀胱も吊り橋のように靭帯や筋膜によって骨盤骨から懸垂された状態にある。この吊り橋の揺れる状態が、「トランポリン」のように揺れた時は膀胱の活動性状態で頻尿や尿意切迫の状態が生じ、「帆船の帆」の綱(靭帯)がゆるんで帆(膣)張っていない時帆船は前進できないように、膣は充分な張力で尿道を閉鎖できない。という例えである。分娩が骨盤底の構造・機能に与える影響はすでに知られている。自然分娩の経過の中で、胎児が娩出するまでの経過は児頭だけでなく、骨盤も応形機能を発揮する。娩出24−48 時間前からその支持能力は強さを失う。もちろん児が娩出しやすいようにである。そして正常分娩では、そのお産のために変化した支持組織の多くは娩出後間も無く正常に復帰する。
医療介入のある分娩はその機能によりダメージを与えることは知られている。会陰切開ひとつにしても産後の尿失禁を増加させる。お産が骨盤底の構造に影響を与えることは分かっていたが、インテグラル理論はその影響をより分かりやすく教えてくれる。それはまた自然分娩(生理的分娩)の大事さを知らしめることでもあった。Petros 教授の当初の目的は、「長期間入院を要する尿失禁手術を、侵襲の少ない日帰り手術へ改良することにあった。」と述べている。インテグラル理論に込められた彼の患者への優しさが感じ取れる一言だと思う。