妊娠・分娩は、骨盤底機能障害の要因の一つに挙げられる。分娩時の骨盤底筋の一つである恥骨腸骨筋は3.26 倍にも伸展するという報告があり、産後の骨盤底機能障害に多大な影響を与える。
骨盤底機能障害で多い症状の一つに尿失禁があげられる。産後の尿失禁は、約30%と報告される。
今回、妊娠・分娩が産後の尿失禁にどのような影響があるかを分析・解明し、効果的な助産ケアを探索することを目的とした研究を行った。その結果、多様な分娩体位を行い、自然な努責で分娩した者に有意に尿失禁が少ないという結果を得たので報告する。この研究での多様な分娩体位とは、膝手位(通称:四つん這い)、側臥位、座位であった。努責は、自然な努責とバルサルバ努責を比較した。バルサルバ努責とは、陣痛開始直前に深呼吸をして息を溜め込み、陣痛持続している間中、努責をかける方法である。
分娩体位と骨盤底機能との関連を検討する。仰臥位や砕石位の分娩では、重力によって尾骨が固定され動かない。しかし、膝手位や側臥位は、尾骨の動きを制限しない。骨盤出口部は横径より前後径が長い。児頭はそれに適合して矢状縫合は縦径(前後径)に一致する。つまり、尾骨が広がれば児頭下降は容易になり、分娩所要時間は短縮すると考えられる。このことが、骨盤底筋群の障害に影響しているのではないかと考える。
また、努責も骨盤底筋群と深い関連がある。ここで、インナーユニットの概念を用いて考察する。インナーユニットは上が横隔膜、横は腹横筋、背中は脊柱起立筋、下が骨盤底筋群で構成され、これらは連動している。筋肉が連動するには、腹腔を屈曲させないことが肝要である。バルサルバ努責は、背中を丸め腹腔が屈曲するため、横隔膜と連動せず腹式呼吸に繋がらない。従って、腹圧を強くかける必要に迫られる。腹圧をかけると骨盤内臓器も下降する。インナーユニットが連動できれば、下降した骨盤内臓器は呼気時に元に戻る。しかし、腹腔が屈曲した場合、横隔膜と骨盤底筋が連動しないため下降した骨盤内臓器は元に戻れない。膀胱が下降すると内尿道口が漏斗状に開大し、尿失禁の一因となる。一方、膝手位は重力を活用できるため自然な努責で児の娩出が可能である。
以上のことから、分娩体位や努責といった分娩介助技術に骨盤底機能障害も視野に入れることは、女性の一生のQOLにつながる技術であるという認識を新たにする必要がある。
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