本研究では,北関東東部の中山間地域でかつて行われていた,農用林で採集した落葉を有機資材として近接する冬季湛水田に直接投入する伝統農法の持つ,炭素( 二酸化炭素およびメタン) の放出抑制効果,温室効果ガス( 二酸化炭素およびメタン) 放出抑制効果および炭素貯留効果について評価することを目的とした。そのために,毎年落葉を採集する落葉広葉樹林分と落葉採集の無い落葉広葉樹林分に試験区を設置した。また,近くの冬季湛水田に落葉施用区と無施用区を設置した。そして,閉鎖型チャンバー法により土壌呼吸で生じる二酸化炭素フラックスを測定し,年間二酸化炭素フラックスを地温変動から推定した。さらに,閉鎖型チャンバー法により,冬季湛水田におけるメタンフラックスを無施用区と有機資材 ( 落葉の代替として稲わら) 施用区で測定し,年間メタンフラックスを地温変動から推定した。これらの結果,土壌呼吸で生じる年間二酸化炭素フラックス(Mg C ha-1 y-1) は落葉採集林では5.64 (95% 信頼区間:5.59–5.69),落葉未採集林では7.57 ( 同:7.49–7.65),冬季湛水田の落葉施用区では1.26 ( 同:1.18–1.32),無施用区では0.84 ( 同:0.81–0.86) であった。また,メタンフラックス(Mg C ha-1 y-1) は有機資材施用区で0.58 ( 同:0.57–0.58),無施用区で0.80 ( 同:0.79–0.82) であった。伝統農法( 落葉採集+落葉施用) と無管理( 落葉未採集+無施用) の2 つの系における年間炭素( 二酸化炭素 + メタン) フラックス(Mg C ha-1 y-1) について,前者は7.48( 同:7.38–7.56) であり,後者の9.21 ( 同:9.13–9.30) に比べて少なかった。温暖化係数を考慮した温室効果ガス排出量( 炭素換算;Mg C ha-1 y-1) については,前者 は12.16 ( 同:12.10–12.21) であり,後者の15.71( 同:15.63–15.79) に比べて少なかった。一方,炭素貯留効果は,1 年という短期間の比較では両者で違いがあるとはいえなかった。以上から,伝統農法は炭素および温室効果ガスの放出抑制効果を持つものと考えられた。