2012 年 50 巻 4 号 p. 297-303
九州大学病院小児歯科外来において,下顎乳臼歯部舌側歯肉に歯胚様組織を含む腫瘤を生じた1 例を経験したので報告する。患児は2 歳11 か月の男児で,D舌側歯肉に径10 mm×5mm,高さ5mmの広基性かつ弾性硬の腫瘤を認めた。同部のエックス線検査では,乳歯,永久歯胚および顎骨を含め,異常な透過像もしくは不透過像は認めなかった。本腫瘤は歯肉に限局する非腫瘍性病変であると判断し,臨床診断をエプーリスとして,全身麻酔下にて腫瘤を切除した。切除した腫瘤の病理組織所見では,歯肉粘膜下に線維性結合組織で包まれた,初期歯胚に類似する組織を複数個認めた。この所見は周辺性歯牙腫または過剰歯との関連を示唆するものであった。しかし,本症例では明らかなエナメル質や象牙質の形成を認めなかった点から,過剰歯胚と診断した。腫瘤切除後4 年を経過した現在まで,再発は認めていない。