自然環境復元研究
Online ISSN : 2759-2472
Print ISSN : 1347-5738
原著論文
琵琶湖周辺内湖の再生と保全(第1報): 平湖・柳平湖の水質改善と滞留時間調整の検討
池谷 透石田 卓也易 容伴 修平大久保 卓也奥田 昇
著者情報
ジャーナル フリー

2024 年 14 巻 1 号 p. 17-29

詳細
抄録

河川整備事業が実施された「平湖・柳平湖」の水質や滞留時間の改善状況を確認し、琵琶湖沿岸の半閉鎖性水域の水質維持について検討した。調査の開始時には、住民は整備事業の水質改善対策の効果を実感しにくい状況だった。事業報告書データによると、浚渫によってリンなどの溶出が抑えられた結果、太田川導水が整備された2010年以降は「平湖・柳平湖」の水質は改善し、8~11月の全リンや溶存反応性リンの濃度低下と8~9月に出現する植物プランクトン種の細胞密度が低下した。さらにデータを解析したところ、カビ臭を生成するアオコ形成種のAnabaena (Dolichospermum) macrosporaなど、導水整備直後に顕著だったアオコ形成ラン藻種は2015年までに減少した。2016年以降はAnabaena (Dolichospermum) affinis をはじめとする数種のラン藻類に構成種が入れ替わり、珪藻類の割合が増加した。内湖の滞留時間の適切な調整を検討するために正味の流出入量を見積もったところ、太田川導水の流入量は整備事業の当初計画量の半分程度だったが、7~12月に実施された整備事業の流入量計測の多くは非灌漑期(9~4月)だったために灌漑期(5~8月)の流入量に対して過少評価で、灌漑期の滞留時間15~17日に対しては過大評価だった。太田川導水の流入不足を補うために地元自治会の保全活動によって実施された追加導水運用の効果を見積もったところ、湖面からの蒸発量が降水量を上回り、灌漑期が終わり太田川導水の流入量も最小だった2018年10月は26日の滞留時間の短縮になり、追加導水を運用した月あたりの平均では7日間の短縮になった。「平湖・柳平湖」のように規模の小さな水域の水質や同化容量の維持には物質収支の人為的管理が必要で、水質変化や流入量の季節変化に留意して滞留時間を順応的に調整することが有効である。

著者関連情報
© 2024 自然環境復元学会
前の記事 次の記事
feedback
Top