日大医学雑誌
Online ISSN : 1884-0779
Print ISSN : 0029-0424
ISSN-L : 0029-0424
特集「基礎医学研究における解析技術 2」
ヒト初代細胞のシングルセルトランスクリプトーム解析
浅居(髙野) 智圭
著者情報
ジャーナル フリー

2026 年 85 巻 4 号 p. 167-172

詳細
抄録

初代細胞のシングルセルトランスクリプトーム解析は,従来のRNA sequencing (RNA-seq) では平均化されていた細胞集団内の不均一性を,個々の細胞の転写プロファイルとして捉えることができる手法である.single-cell RNA-seq (scRNA-seq) は,現在では細胞生物学的研究における基盤的解析手法の一つとなっている.本稿では,scRNA-seqの基本原理と従来のRNA-seqとの違いを概説し,ヒト羊膜上皮細胞を例に,組織由来初代細胞を対象としたscRNA-seq解析の実際を述べる.液滴を用いたscRNA-seqでは,個々の細胞を1つずつ微小な液滴内に閉じ込め,それぞれの細胞に由来を識別するための目印を付けることで,細胞ごとの遺伝子発現を解析する.その後,品質管理,正規化,次元削減,クラスタリングを行い,各クラスターで特徴的に発現する遺伝子を調べることで,細胞集団の性質を推定する.また,必要に応じてサンプル間の統合解析や細胞状態の連続的変化の推定を行う.一方で,羊膜上皮細胞のような初代細胞では,酵素処理,機械的刺激,セルソーティング,培養条件などが転写プロファイルに影響し得るため,細胞処理条件の事前検討と,解析目的の明確化が重要である.scRNA-seqには,低発現遺伝子が検出されにくいこと,組織内の位置情報が失われること,細胞集団の意味づけが難しいことなどの限界も存在する.scRNA-seqを有効に活用するためには,明確な生物学的問いと,単一細胞レベルで解析する必然性を持つことが必要である.適切な実験設計のもと,バイオインフォマティクス専門家と協働し,得られたデータの意味を丁寧に考察することで,本手法は基礎医学研究に新たな視点や仮説をもたらすものとなる.

著者関連情報
© © 2026 日本大学医学会
前の記事 次の記事
feedback
Top