甲状腺分化癌の発生・進展に重要なシグナル伝達経路としてMAPK経路とPI3K-AKT経路がある。乳頭癌ではMAPK経路が,濾胞癌ではPI3K-AKT経路が遺伝子異常によって活性化されていることが多い。乳頭癌でよくみられるBRAF変異,RET融合遺伝子,NTRK融合遺伝子は,近年いずれも特異的分子標的薬が開発され,すでに利用可能,もしくは可能となりつつあり,そのために遺伝子変異を適切に検出する必要がある。大きな問題とはならないと思われるが,稀な変異には検出感度に注意が必要である。濾胞癌でよくみられるRAS変異に対しては,阻害剤の開発が遅れている。低分化癌,未分化癌でも分化癌にみられる変異が認められる腫瘍があり,これらも適切な遺伝子検査によって薬剤を選択する必要がある。髄様癌では,遺伝性・散発性ともRET変異が多く,こちらもRET阻害剤が有効であるものが多い。