良性甲状腺結節に対する手術適応について確立された基準はない。そこで,術前に良性と推定された甲状腺結節(術前推定良性甲状腺結節)に対する手術症例の特徴を検討した。その結果,手術適応は,濾胞性腫瘍が最多で,以下,結節径が大きい,増大傾向が続いていた。術後病理診断は,約9割が腺腫様甲状腺腫または濾胞腺腫,約1割が濾胞癌であった。良性濾胞性腫瘍と濾胞癌の特徴を比較した結果,濾胞癌において増大傾向を有した症例の比率が高い傾向にあった。濾胞腺腫は,大きさ4cm以上になるまで悪性化しないとの報告がある。結節の成長速度が4mm/年以上である場合,悪性の可能性が高まるとの報告がある。良性甲状腺結節と推定されても,大きさ4cm以上,成長速度4mm/年以上のものは,悪性である可能性を考慮し,手術を考慮したほうがよいと考えられた。
超音波検査による甲状腺結節の発見率は,6.9~31.6%であるといわれている[1]。超音波検査で甲状腺結節が認められた場合,癌の頻度は2.6~8.3%といわれている[1]。良性甲状腺結節に対しても手術は行われているが,手術症例の特徴を検討した報告が少ない。そのため,良性甲状腺結節の手術適応について,エビデンスに基づいて確立された基準はないのが現状である。そのため,術前に良性と推定された甲状腺結節(術前推定良性甲状腺結節)に対する当院の手術症例の特徴を検討した。
本研究は,単一施設の後方視的研究である。電子カルテ内の情報を抽出し,解析した。検討対象は,2017年1月~2022年5月に当院で手術を施行した甲状腺充実性結節(囊胞は除外)100例中,穿刺吸引細胞診または画像検査において,術前に明らかな悪性所見,または,悪性疑いの所見を得ていなかった39症例(40病変)とした。検討項目は,症例背景,手術適応,術後病理診断,良性濾胞性腫瘍と濾胞癌の臨床的特徴とした。
統計学的解析は,定量データの2群比較にはMann-Whitney U testを,分類データの2群比較にはχ 2 testを用いた。p<0.05を有意とした。本研究は,松江市立病院倫理委員会の承認を得て行った(承認番号:4B-0046)。

症例背景
年齢中央値は55歳,男女比は女性が多く,手術時結節径中央値は40mmであった。術前細胞診の結果は,濾胞性病変にて鑑別困難と判定された病変が33部位(83%)と最多であった。実施した手術術式は,腫瘤核出術・部分切除術が26症例(67%),片葉切除術が13症例(33%)であった。術前甲状腺機能は,正常が30症例(77%),亢進が3症例(8%)であった。抗サイログロブリン(Tg)抗体陰性症例における血中Tg値の中央値は127ng/mlであった。抗Tg抗体陰性症例は33症例(85%)であった。
手術適応(図1)
手術適応。手術適応は複数項目を選択可として集計した。濾胞性腫瘍が最多で,以下,結節径が大きい,増大傾向が続いていた。
手術適応項目は,複数選択を可として集計した。その結果,濾胞性腫瘍が37部位(93%)と最多であった。次に,結節径が大きいが29部位(73%),増大傾向が11部位(28%)と続いていた。甲状腺機能亢進を示した機能性結節3症例は,全例,手術されていた。血中Tg値高値,縦郭進展,気管圧排・狭窄は,それぞれ,2部位(5%),2部位(5%),1部位(3%)で,頻度は比較的少なかった。
術後病理診断(図2)
術後病理診断。腺腫様甲状腺腫と濾胞腺腫で93%を占めていた。濾胞癌は7%を占めていた。腺腫様甲状腺腫の1例に偶発微少乳頭癌が同定された。
腺腫様甲状腺腫が23部位(58%),濾胞腺腫が14部位(35%),濾胞癌(微少浸潤型)が3部位(7%)であった。腺腫様甲状腺腫であった1部位に偶発的微少甲状腺乳頭癌が認められた。当該症例は,55歳女性。結節径35mm,2018年4月から2020年1月までの結節の成長速度は4mm/年であった。
良性濾胞性腫瘍と濾胞癌の臨床的特徴(表2)
良性濾胞性腫瘍と濾胞癌の臨床病理学的特徴の比較
良性濾胞性腫瘍(腺腫様甲状腺腫と濾胞腺腫)と濾胞癌の臨床的特徴を比較した。偶発微少甲状腺乳頭癌を有した腺腫様甲状腺腫1例は,解析対象から除外した。手術時年齢,血中Tg値,結節径,増大傾向を有した症例の比率,増大傾向を有した症例の成長速度について,両群に有意差はなかった。しかし,増大傾向を有した症例の比率は,濾胞癌において多い傾向であった。
良性甲状腺結節と推定した診断は妥当であったか検討した。細胞診にて,The Bethesda System for Reporting Thyroid Cytopathologyに基づいて,Atypia of undetermined significance(AUS)or follicular lesion of undetermined significance(FLUS;AUS/FLUS)と判定された病変の悪性リスクは,15~30%と報告されている[2]。本研究の結果,術前推定良性甲状腺結節の殆どは濾胞性腫瘍であり,濾胞癌の比率は8%であった。当院の悪性病変の比率は,上記報告と比べ低かった。症例数が限られているという限界はあるものの,術前に良性甲状腺結節と推定した診断は,妥当であったと考えられる。
手術を考慮したほうがよい非機能性の術前推定良性甲状腺結節について検討した。濾胞癌は,構造異型で診断がなされるため,超音波検査と細胞診を組み合わせても術前診断が困難である。濾胞癌の生命予後不良因子として,45歳以上,腫瘍径4cm以上が報告されている[3]。真の良性結節(濾胞腺腫)は,4cm以上に増大するまで悪性化しないと考えられている[2]。本研究の結果,術前推定良性甲状腺結節の殆どは,濾胞性腫瘍であり,濾胞癌であるか否かが問題となる結節であった。最終病理診断が濾胞癌であった症例は,増大傾向を有する比率が高い傾向にあった。術前推定甲状腺結節であっても,①増大傾向を有し,②大きさが4cm程度に達していて,③45歳以上の症例では,濾胞癌である可能性を考慮し,手術を考慮したほうがよいと考えられる。
増大傾向の観点から注視すべき甲状腺結節について検討した。良性甲状腺結節の成長速度は,1~2mm/年以上になることは滅多にないとされている[4]。また,結節の成長速度が4mm/年以上である場合,悪性の可能性が高まることが示唆されている[4]。本研究の結果,最終病理診断が濾胞癌であった症例は,増大傾向を有する比率が高い傾向にあった。一方,増大傾向を有した症例の成長速度は,良性濾胞性腫瘍と濾胞癌で差がなかった。本研究結果では,増大傾向を示した濾胞癌症例数が限られており,成長速度の観点から注視すべき甲状腺結節に関する結論を導きだすことはできなかった。しかし,既報から,成長速度に着目したフォローは,注視すべき甲状腺結節抽出の一助になるかもしれない。
血中Tg値は濾胞腺腫と濾胞癌の鑑別に有用か検討した。明らかな有用性は確立されていないものの,血中Tg値が1,000ng/ml以上の場合,濾胞癌の可能性が高いとする報告もある[5]。本研究の結果,血中Tg値は,濾胞腺腫と濾胞癌で差がなかった。本研究結果では,濾胞癌症例数が限られていること,術前に良性を優位に考える症例を対象としていることから濾胞癌であっても悪性度の低い癌であったと推定されるため,濾胞腺腫と濾胞癌で,血中Tg値に差がでなかった可能性が考えられる。既報より,血中Tg値は,手術適応を考慮するひとつの因子と考えておいたほうがよいと解する。
術前推定良性甲状腺結節の約9割は良性濾胞性腫瘍であった。そのため,濾胞性腫瘍というだけで即手術というのは,やや過剰治療と思われた。術前推定良性甲状腺結節の主な手術適応は,①大きさ4cm以上,②成長速度4mm/年以上の増大傾向を有する,③血中Tg値1,000ng/ml以上など,濾胞癌との鑑別が困難な症例であると考えられた。