2024 年 41 巻 1 号 p. 18-22
甲状腺癌取扱い規約第9版における甲状腺乳頭癌の診断項目に大きな変更はないが,新たに「低リスク腫瘍」の概念が導入されたことに伴い,核所見の記載方法や濾胞型乳頭癌の概念に若干の変更が加えられている。診断必須項目ではないが,主な遺伝子変異や免疫染色に関する情報も追記された。乳頭癌の亜型では,従来の濾胞型,大濾胞型,好酸性細胞型,びまん性硬化型,高細胞型,充実型,ボブネイル型に加え,円柱細胞型が新たに加わった。旧規約にあった篩型亜型は乳頭癌亜型から外れ,独立した腫瘍として記載されている。
甲状腺癌取扱い規約は,甲状腺腫瘍の診断の国際基準,最新の知見を加味しつつ,本邦の医療との整合性を保ちながら,数年おきにアップデートされる。国際基準を参照する際,最も重要視されるのは,WHO分類であり,甲状腺癌取扱い規約第9版(新規約)にも,最新のWHO分類第5版(WHO分類)の内容が反映されている[1,2]。取扱い規約第8版(旧規約)からの最大の改訂部分は,国際性を重視して,前回導入を見送った“境界病変”を「低リスク腫瘍」として良性腫瘍と悪性腫瘍の間に組み入れたことである。乳頭癌の定義に本質的な変更はないものの,「低リスク腫瘍」の導入に関連して,若干の変更がなされた(図1)。いままでほとんど言及されていなかった免疫組織化学所見や遺伝子変異についても,WHO分類にならい,必要最小限の情報が,追記された。以下,新規約における甲状腺乳頭癌(通常型,亜型)の記載内容の変更点を述べるともに,関連する最近の知見をWHO分類を参考に紹介してみたい。

甲状腺癌取扱い規約第9版の主な改訂点
甲状腺乳頭癌の診断は,伝統的に核内細胞質封入体,すりガラス状,核溝といった核所見の有無によりなされていた(図2)。新規約でも,乳頭癌の診断は細胞像,特に核所見に基づいて行うことに変更はない。唯一の変更点は,核所見を「低リスク腫瘍」の診断に用いられる乳頭癌核スコアとの整合性を保つため,核形(腫大,伸長,重畳),核膜(不整,核溝,核内細胞質封入体),クロマチン(淡明化,すりガラス状)の3項目に分けて記載していることである[3](乳頭癌通常型の診断にスコアリングは必須ではない)。遺伝子変異に関しては,BRAF遺伝子点突然変異(BRAF p.V600E)とRET遺伝子の再構成(いわゆるRET/PTC転座;CCDC6::RET, NCOA4::RETなど)が高率にみられること,RAS遺伝子の点突然変異は稀であることが新たに記載されている。

甲状腺乳頭癌(通常型)の典型像
濾胞上皮が,小血管を含む疎性結合組織からなる間質を有して乳頭状に増殖する(A)。
強拡大では,核内細胞質封入体,すりガラス状,核溝といった像が観察される(B)。
旧規約では,乳頭癌に充実性,索状,島状構造を示す低分化成分が優位にみられる場合(50%以上)は低分化癌と診断するよう記載されていたが,その記述は省かれている。欧米における低分化癌の定義であるトリノ提案に準じて,“低分化癌には高頻度に核分裂像,腫瘍の凝固壊死やねじれ核がみられる(ただし診断の必須項目ではない)”ことが規約に追記され,本邦の低分化癌の定義が若干変更されたためである[4]。
旧WHO分類では,乳頭癌の亜型を表すのに,“variant”が使用されていたが,第5版からは,“subtype”が使用されている。これは,WHO分類の多くの腫瘍で,“subtype”が用いられていることとの整合性を保つためと,遺伝子診断のときに用いられる“genetic variant”との混乱を避けるためである。これに合わせる形で,新規約でも乳頭癌亜型に,“subtype”が使用されている。
亜型の種類であるが,従来の濾胞型,大濾胞型,好酸性細胞型,びまん性硬化型,高細胞型,充実型,ボブネイル型に加え,円柱細胞型が新たに加わった。旧規約にあった篩型亜型は乳頭癌亜型から外れ,独立した腫瘍として記載されている。
1)濾胞型乳頭癌世界的な潮流として,腫瘍の分類方法は,純粋な形態学的変化に基づいた分類から,遺伝子学的特徴を加味した分類に移行しつつあり,甲状腺癌も例外ではない。甲状腺癌は,大きくBRAF-like 変異とRAS-like 変異の二つのドライバー遺伝子変異を持つタイプに二分され,それぞれ,乳頭癌,濾胞癌に代表される。濾胞型乳頭癌は,形態学的に乳頭癌と濾胞癌の両方の特徴を持つことから,その分類方法が複雑化している。
WHO分類は,遺伝子変異をもとに,乳頭癌の核所見を持ち,濾胞型増殖をする腫瘍を,①線維性被膜を欠き浸潤性に増殖するタイプ(非被包化濾胞型乳頭癌infiltrative follicular variant of papillary thyroid carcinoma)と,②線維性被膜を持つタイプ(被包化濾胞化乳頭癌encapsulated follicular variant of papillary thyroid carcinoma)の二つに大別し,②は,RAS-like 変異の存在(濾胞癌に近い)から,乳頭癌のカテゴリーから除外している[5](図3,4)。②のうち浸潤のないものは,non-invasive follicular thyroid neoplasm with papillary-like nuclear features (NIFTP)とし,浸潤がみられるものは,③浸潤性被包化濾胞型乳頭癌(invasive encapsulated follicular variant of papillary thyroid carcinoma)として一つの独立した疾患とした。したがって,WHO分類上,濾胞型乳頭癌(乳頭癌の一亜型)といえば,①のみを指す。

濾胞型乳頭癌:甲状腺癌取扱い規約第9版とWHO分類第5版の比較

濾胞型乳頭癌の組織像
甲状腺癌取扱い規約第9版上,濾胞型乳頭癌は,線維性被膜を欠き浸潤性に増殖するタイプ(A)と,被膜を有し浸潤像を伴うタイプ(B)に大別される。被膜浸潤がなくとも,乳頭癌核スコア3の場合やBRAF p.V600E変異が確認された場合は,被包化濾胞型乳頭癌と診断する。
一方,新規約では,①と③の両者が濾胞型乳頭癌に含まれる(図3)。これに合わせて,従来の濾胞型乳頭癌の定義(乳頭癌の所見に加えて,濾胞状構造のみからなる腫瘍)に加えて,“周囲に浸潤性に増殖し線維性被膜を欠くものと,全周性に線維性被膜で覆われるが一部に浸潤がみられるものに分けられる”,との説明が追記された。
また,低リスク腫瘍の導入に合わせて,非浸潤性被包化濾胞型乳頭癌(②のうち浸潤のないもの)は,NIFTPに分類される。②でも,乳頭癌核スコア3の場合やBRAF p.V600E変異が確認された場合,被包化濾胞型乳頭癌とする,との事項が追記された。日常診断で,乳頭癌核スコアの記載は必須ではないが,濾胞型乳頭癌や同疾患が鑑別にあがる場合,スコア記載が推奨される。
2)大濾胞型コロイドが充満した大型濾胞からなる腫瘍であり,一見腺腫様甲状腺腫に類似した組織像を呈するが,通常型乳頭癌組織の部分も認める。教科書によっては,腫瘍成分の50%以上が大型細胞からなるものを本腫瘍とすべきとの記載があるが,実際には厳格な基準はない。新規約でも大型濾胞の含有量の記載はない。
3)好酸性細胞型乳頭癌好酸性細胞型は,腫瘍細胞の大部分が好酸性細胞からなる乳頭癌である[6]。腫瘍細胞の70~80%が好酸性細胞で占められていることが必要する研究者もいるが,新規約では厳格な定義は明記されていない。一方,ミトコンドリア遺伝子異常の存在から,旧規約の好酸性細胞型濾胞腫瘍(腺腫,癌)は,それぞれ,膨大細胞腺腫,膨大細胞癌との独立した腫瘍として記載されているが,これらは乳頭癌好酸性細胞型はとは異なる腫瘍であることに注意する必要がある。
4)びまん性硬化型10歳代の若年者を中心に発生する特殊な乳頭癌である。甲状腺はびまん性に腫大し,硬い腫瘤形成を呈する[7]。組織学的には,拡張したリンパ管内に癌細胞が腫瘍塞栓として認められる。間質には線維化やリンパ球浸潤がみられ,砂粒体も目立つ。新規約において,本亜型の記載に,変更はないが,RET遺伝子の再構成を認めるものが多いとの情報が追加された。
5)高細胞型高齢に発症する予後不良な腫瘍である。高細胞は腫瘍細胞の高さが幅の2倍以上を示す。旧規約では,腫瘍組織の50%以上の細胞が高細胞からなることが診断に必要と記載されていたが,最近の知見に基づきWHO甲状腺腫瘍分類第5版から,30%以上に変更された[8]。これにならい,本規約でも30%以上に変更された。
6)充実型乳頭癌の特徴的核所見を保ちながら,充実性,索状パターンが腫瘍の多く(>50%)を占める腫瘍である[9]。通常,低分化癌にみられるような細胞分裂像や壊死は伴わない。新規約では,診断基準に変更はないが,放射線曝露により発生した小児例では,RET遺伝子の再構成(NCOA4::RET)が高頻度に認められるとの情報が追加された。
7)ボブネイル型組織学的に乳頭状構造からなり,腫瘍細胞の核が細胞の遊離面近くに突出する像(ホブネイル所見)を認める。再発,転移が高率で,通常型に比較して予後不良である[10]。診断にはボブネイル細胞が,腫瘍の30%以上を占める必要があるとの記載が,WHO分類に準拠して削除された。
8)円柱細胞型WHO分類で,乳頭癌亜型の一つとして導入されたことに伴い,規約でも乳頭癌亜型として記載された。高円柱上皮細胞が偽重層化して乳頭状,索状,濾胞状,腺腔状に配列し,また充実成分も有する腫瘍である[11]。濾胞および腺腔の内部にはコロイド物質を欠く。腫瘍細胞は円形から長円形のクロマチンに富む核を有し,ところにより分泌期の子宮内膜腺上皮細胞のように核上ないし核下空胞が認められる。免疫染色では腫瘍細胞は,TTF1,PAX8が陽性であることを確認する必要がある。
9)その他旧規約で,篩状モルラ亜型とされていた腫瘍は,乳頭癌とは異なる形態学的変化,遺伝子異常,免疫染色態度(β-カテニンの発現,PAX8陽性,TTF-1陰性)などの理由により,乳頭癌以外の独立した一腫瘍に分類された。
微小癌(microcarcinoma)は,かつて乳頭癌のうち,1cm未満のものを指し,旧WHO分類では,乳頭癌の一亜型として記載されていた。実際は,乳頭癌のその他の亜型でも同様のサイズの病変が発生するとの考えから,WHO分類では,亜型としての微小癌はなくなり,本規約でも付記から削除されている。
新規約における乳頭癌の改訂点について述べた。現在のところ,乳頭癌通常型の診断そのものは,核所見に基づいて行われる点で,変更はない。だが,低リスク腫瘍の導入により,必然的に,濾胞型乳頭癌の概念に変更が生じた。今後も,乳頭癌およびそれ以外の甲状腺腫瘍に関する遺伝子や臨床データなどの新たな知見が集積していけば,乳頭癌の概念や診断方法にも変更が生じる可能性は否定できない。