日本内分泌外科学会雑誌
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特集1
国内におけるRAI内用療法の現状と将来展望
廣正 智絹谷 清剛
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2024 年 41 巻 2 号 p. 90-93

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抄録

今回の甲状腺腫瘍診療ガイドライン改定において,甲状腺分化癌に対する放射性ヨウ素(RAI:radioactive iodine)内用療法では特に補助療法に焦点が当てられた。国内外におけるRAI内用療法の投与量に関する差異の解消が望まれる一方で,近年新たに承認された核医学治療薬の登場により内用療法・核医学治療病室の環境にも変化が起きている。本稿では,他疾患を含めた昨今の内用療法環境やガイドライン改定のポイント,内用療法後のリスク再分類の重要性に加えて,甲状腺分化癌に対する近年注目されているRAIの活用方法に関して述べる。

はじめに

本邦における甲状腺癌診療のあり方は,2010年の甲状腺腫瘍診療ガイドライン制定や2018年のガイドライン改定をはじめとして,放射性ヨウ素(RAI:radioactive iodine)外来アブレーション開始,遺伝子組換えヒト型甲状腺刺激ホルモン(rhTSH:recombinant human thyrotropin)使用の開始・拡大やRAI不応性甲状腺癌に対するさまざまな分子標的薬の登場によって着実に変化している。本稿では,国内の甲状腺癌を含む内用療法の最近の動向や改定ガイドラインに記載されるRAIに関わる事項,国際的に注目されている点や未解決問題に関して,筆者の私見を踏まえ述べてみたい。

最近の国内動向

日本アイソトープ協会は,5年毎に核医学診療実施施設数,核医学検査数,核医学治療数などに関する全国調査を行い,最近では2023年に第9回全国核医学診療実態調査報告書を公開している[]。本調査は全国の1,200を超える施設を対象として実施されており,回答率は90%超と確度の高い内容である。

甲状腺癌の内用療法は入院治療で増加傾向にある。治療全体としては今回4,099件(前回2017年は4,487件)と前回の2017年調査時と比較して8.6%減少した。内訳としては前回の2,845件から今回3,084件と入院治療が239件増加した一方で,外来治療が1,642件から1,015件と,627件減少している。この推移は前回のガイドライン改定によるアブレーションの意味付けと補助療法のRAI投与量適正化が要因と考えられる。補助療法に対しての入院+3.7 GBq(100 mCi)での妥当性が国内で浸透したことが裏付けられた結果と考え,核医学治療医の立場からは喜ばしい結果である。

一方で,国内の他の核医学治療の重要性も増す中で,今後この治療件数を維持できるかといった問題も表面化しつつある。本邦では長らく入院での核医学治療は甲状腺癌に対するRAI内用療法がメインであったが,2021年に神経内分泌腫瘍に対するLu-177 DOTATATE治療と転移性・難治性の褐色細胞腫・パラガングリオーマに対するI-131 MIBG治療がそれぞれ保険収載された。さらにアメリカ食品医薬品局による進行性前立腺癌に対するLu-177 PSMA-617治療薬承認により,国内における本治療薬の承認も今後期待されている。Lu-177標識の放射性医薬品であれば一般病室を特別に改変した治療室(特別措置病室)での治療も可能と思われるが,たとえ特別措置病室を使用しても施設ごとの放射性廃棄物の排水設備を拡大させることは難しく,放射性医薬品の使用数量には制限が付く。結局のところ,これら治療を含めた核医学治療全体の増加はRAIの使用余力減少を意味し,一定数の施設における喫緊の課題となる可能性がある。

rhTSH併用補助療法

今回のガイドライン改定のポイントは,特に補助療法に焦点が当てられた。CQ8-1で挙げたように,国際的にも補助療法へのrhTSH使用の是非は決着がついていない。この主因は,甲状腺遺残に対する古典的なアブレーションのrhTSH製剤併用の研究が完了したのちに,この補助療法という概念が確立したためとされている[,]。その結果,術後補助療法とアブレーションの場合では,休薬法とrhTSH製剤の2つの選択肢のどちらが優れているか評価できるような明確なデータがなかった。今回の本ガイドライン改定によっていくつかの後ろ向き研究を採用しrhTSH使用を弱い推奨としたが,今回採用した文献のみでも有効性に関するエビデンスは依然として不十分であろう。一方で,rhTSH製剤の使用による甲状腺ホルモン休薬の影響を回避できることは,就業制限・併存疾患悪化・精神疾患出現を最小限にとどめられるため明らかなアドバンテージと考えてよい。また,rhTSH製剤の使用により唾液腺炎を軽減できるとした報告もある[]。これらを加味すると,その選択に当たっては個々の症例の医学的特徴,経済的実現可能性,QOL,社会的背景を総合的に評価したうえで選択されることが望ましい。もちろん今後の症例蓄積を踏まえて,本CQの推奨度は都度検討されるべきであろう。

RAI内用療法後のリスク再評価の重要性

今回のガイドライン改定において焦点となった「1.1 GBq(30 mCi)が補助療法となり得るか」であるが,これは国際的にも放射線治療病室の乏しい本邦特有の問題である。他国では1.1 GBq(30 mCi)での補助療法が一般的でないことからも,本邦からのエビデンス蓄積なしにはこの問題は解決できない。国際的なコンセンサスは,補助療法は一般的に3.7 GBq(100 mCi)とされ,米国欧州一部の専門家からは5.5 GBq(150 mCi)量も必要との意見もある[]。ただし前述したように,本邦における核医学治療は今後ますます他疾患群での利用が予想され,それに伴い待機問題の再燃・悪化が危惧される。よって,外来にて1.1 GBq(30 mCi)での初回RAI内用療法を行うことは一定の症例に取らざるを得ない選択肢といえよう。

私から提案できることは,外来内用療法を選択せざるを得ない症例は少なくともRAI内用療法後にリスク再分類に則って評価することが肝要と考える。リスク再分類とは,甲状腺全摘後・初回RAI内用療法に対する反応に基づいて,再発リスクを層別化したものである。これは初回RAI内用療法後の最初の2年間の経過観察期間中に,TSH非刺激下または刺激下サイログロブリン値と画像再評価(I-131シンチグラフィ)にて行うこととされている[]が,追跡期間中のどの時点においても臨床状態を説明するために適用できる。例えば,初回RAI内用療法後に優れた奏効を示した群(Excellent response)の疾患再発リスクは1%~4%と考えられ(表1),これは治療前評価として中リスク・高リスクに分類された症例では大きなリスク変化である。RAI内用療法後再分類の他カテゴリーに関しては表1やATAガイドラインを参照されたい。このようにRAI内用療法に対する治療効果判定は長期的な再発リスクや疾患特異的生存率の予測に利用できる。

表1.

ATAガイドラインより引用改定[

分子標的薬による再分化療法(NIS発現誘導療法)

本邦で甲状腺分化癌に対して保険承認されて間もないBRAF/MEK阻害剤などの選択的分子標的薬によるNIS(Sodium/iodide symporter)発現増強が近年注目されている。甲状腺分化癌の放射性ヨウ素治療抵抗性の獲得は細胞膜のNISの発現抑制・低下が主因となる。このNIS発現低下の原因として,特に甲状腺乳頭癌においてはBRAF V600E変異などによるMAPK(mitogen-activated protein kinase)シグナル経路の恒常的活性によって引き起こされ,選択的分子標的薬によってこの伝達経路を阻害することでNIS発現は改善すると考えられている。このように選択的分子標的薬のNIS発現改善・増強によってRAI内用療法の治療効果を高める方法は,近年では再分化療法と呼ばれている。

実際にこれまでMAPKシグナル伝達経路阻害剤である複数の分子標的薬において一定の効果が示されている。遺伝子変異の種類などでばらつきはあるものの,複数の少数例報告(本邦未承認薬を含む)では,その再分化成功率は33~95%,再分化後のRAI奏効率は33~100%と報告されており[],今後の症例蓄積が期待される。

このRAI治療抵抗性甲状腺分化癌への再分化療法は国際的には推し進められている傾向にある。2022 European thyroid associationコンセンサス[]では,進行性甲状腺癌症例には盲目的なRAI治療を継続するのではなく,再分化プロトコルを用いた臨床試験への参加を勧めることが望ましいとしている。またSNMMI/EANM(米国・欧州核医学会)簡易版ガイドラインでも再分化(redifferentiation)を期待して分子標的薬の使用を考慮すべきとした[]。現在は本邦未承認薬も含め複数の分子標的薬において前向き試験が進行している[10]。

日本人においては標準治療抵抗性の甲状腺乳頭癌の75%がBRAF V600E変異を有するとした報告もあり[11],再分化療法はわれわれにとっても重要な治療方法の一つとなり得る。

被包性血管浸潤型濾胞癌に対するRAI内用療法

執筆時点において被包性血管浸潤型濾胞癌に対するRAI内用療法の有効性に関する報告はなく,ここでは個人的見解を述べる。濾胞癌は一般的にその細胞膜のNIS発現は良好と考えられ,RAI内用療法は奏効する傾向にある。よって,再発リスクの危険因子を有する全摘後・補完全摘後の症例であればRAI内用療法は推奨される。ただし,本疾患群におけるRAIの使用有無・投与量差によるリスク再分類やアブレーション達成率,再発率などへの影響は報告されておらず,今後の検討課題である。

おわりに

冒頭でも述べたように,われわれは核医学治療病室の制限のもと,これまで以上に不必要なRAI内用療法を避け,最適化された医療を提供する必要がある。RAI内用療法の後治療がますます充実してきた昨今において,一昔前のような漫然とした反復性RAI内用療法は避けるべきであろう。そのためにも,今回改定されたガイドラインなどを参照しながら最新のデータに基づき,有限な医療資源を最大限・効率的に活用することが今後より一層求められる。

【文 献】
 
© 2024 一般社団法人日本内分泌外科学会

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