1996 年 11 巻 2 号 p. 129-144
現在のヒトはきわめて複雑な社会を構成しているが、もとをたどればそれも、原猿のつくる単純な社会から、真猿類の群れ社会を経て次第に進化してきたものである。霊長類におけるこのような社会進化のメカニズムを知ることは、秩序や規範の起源といった社会学上の基本問題にアプローチする上で不可欠であると考えられる。本研究ではこうしたアプローチの第一歩として、霊長類における群れ社会の形成メカニズムについて検討を行った。いくつかのESS(進化的に安定な戦略)モデルによる検討の結果、捕食者を避ける要因が多くの場合、群れ戦略を有利にする上で有効であることが明らかとなった。また、群れの形成はエサなどの資源を巡る争いを激化させる一方、個体密度が高い場合やエサ資源が不均一に分布している場合には、連合して資源を防衛するために群れを作る戦略が有利になりうることが明らかとなった。