これまで社会学では数々の権力暴露が行われてきたが、暴露された権力の「望ましくなさ」も考察される必要がある。そこで本稿では、宮台[1989]が発見した服従者と権力者の選考構造をもとにして「公平」の観点から権力の望ましくなさを判断する。まずは社会的選択理論によって、当事者の序数的選考プロファイルだけをもとに考察する。そこでは、Blau[1975]とHarel & Nitzan[1987]によるリベラル・パラドックスの解法が有益であり、その結果、望ましくない権力自体が存在しない、という結論が得られる。そこで基数的効用にまで情報的基礎を拡張するならば、「切実性」の公準を考えることによって、望ましくない権力を弁別することが可能となる。では、このような望ましくない権力を、実際の権力ゲームにおいても回避できる方法はないだろうか。そこで、服従者に権力者に対して補償を行う余地を認めるならば、ゲーム的状況においても服従者が依然として切実に望ましいと思う社会状態を達成することができる。ただし、それには補償額に関する両当事者の評価がある条件を満たしていなければならないが、いずれにしても、権力が望ましくないケースは限られているといえる。