抄録
本稿では、近年盛んな質的データの定型的な分析法の一つとしてP.AbellのComparative Narrativesに着目し、その一般的な特徴や問題点を整理したうえで、とくに質的資料の二次分析におけるその意義を検討する。事例として、いわゆる「蜂の巣城紛争」の初期段階をとりあげる。まず相互行為モードの抽象化によって、この紛争プロセスにおける重要局面を絞り込む。次いで、その重要局面を中心にAbellのいう局所的説明を拡張した意味論的掘り下げを行い、当事者の意志とその理解に関する当事者間のずれが、紛争経過に及ぼした影響を吟味する。二次分析においてComparative Narrativesの効用を増すには、意味論的掘り下げ⇔抽象化⇔一般化という分析枠のなかにそれを位置づけることが望まれる。