理論と方法
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論文
情報と不確定性
数土 直紀
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1992 年 7 巻 1 号 p. 103-119

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抄録

 この論考では、情報が役に立つとはどのようなことなのか、このことの解明を目的にしている。人々は、情報を活用することで、事を有利に運ぼうとする。しかし、情報は、それだけで何らかの有用性を持っているわけでない。特に、他者との関わりの中で情報を用いようとする場合、情報は用いられ方次第で、有用にも、有害にもなりうる。そして、人は、与えられた情報を有用なものとして扱おうとする限り、その情報が状況に導入されることで、自分の判断にだけでなく、他者の判断にもどのような変更が生じうるかを検討しなければならなくなる。この事実は、二つの点で重要である。一つは、この事実は、情報を得ることで状況の展開の読みが容易になり、手の決定にいたるまでの負担が軽減される、という常識が誤っていることを示唆している。もう一つは、この事実は、状況に関係する不確定的な要因を確定してくれる情報が他者というより根源的な不確定性への意識的な注意を喚起するということを明らかにしている。つまり、状況の中の不確定性を減少させるはずの情報は、同時に、行為者をして異なる不確定性の存在に意識を向けさせる。これは、情報の逆説的な性格の一つであろう。

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© 1992 数理社会学会
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