抄録
【目的】知的障害を伴い自傷行動を示す当施設事例の基礎要因と治療に関する評価を行い, 対処法の検討を試みた. 【方法】当センター利用中の, 知的障害を伴い自傷行動を示す事例92名 (男性67名女性25名, 年齢3歳6カ月~66歳10カ月, 平均22歳2カ月±12歳10カ月) を対象に主治医への後方視的質問紙形式にて, 身体状況, 併存症状, 自傷生起誘因, 試みた治療と効果などに関する調査を行った. 【結果】精神行動面の合併症状で高頻度に挙げられたのは易興奮性など主に情動調節の不安定を示唆する症候であった. 生起誘因では体調17件・騒音気温などの物理環境33件の回答があった. 81名が自傷に関する薬物療法を試みられ, risperidoneの処方が75名 (有効38名 (50.6%)) と最多数であったが, 自傷の程度が強い例ではphenothiazine系抗精神病薬の使用が比較的有効な傾向がみられた. 選択的セロトニン再取り込み阻害薬 (SSRI) は20名処方中有効5名 (25%) で興奮などの副作用も認め11名 (55%) は中止されていた. 付加的使用でtopiramateは13名処方中10名 (76.9%) で感情安定による効果を示した. 肘伸展保持装具の使用も有効な例があった. 【結論】知的障害児 (者) における自傷行動において薬物療法は一部有効であるもその効果は部分的であり, 生起状況を併せて考慮した対応が必要である.