脳と発達
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症例報告
長崎県で2015年秋に発症した急性弛緩性脊髄炎の3例
原口 康平里 龍晴森山 薫井上 大嗣渡邊 嘉章藤井 明子松尾 光弘伊達木 澄人森内 浩幸
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2017 年 49 巻 6 号 p. 408-412

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抄録

 2014年秋に北米においてエンテロウイルスD68 (EV-D68) 関連呼吸器疾患のアウトブレイクが発生した際に, 急性弛緩性麻痺の症例が多数報告され, 急性弛緩性脊髄炎という概念が示された. 同様に, 2015年秋に本邦においてEV-D68のアウトブレイクが発生した際にも急性弛緩性麻痺の症例が多数みられ, 長崎県においても急性弛緩性脊髄炎の小児3例を経験した. 症例は, 12歳女児, 4歳男児, 2歳女児である. いずれの症例も先行感染から4~9日後に急性弛緩性麻痺を発症し, 脊髄MRIのT2強調画像では全例で脊髄前角付近を中心とした高信号域病変を, 髄液検査では全例で細胞数増多と2例で蛋白の上昇を, 末梢神経伝導検査では全例にF波の出現率低下を認め, 弛緩性脊髄炎と診断された. 免疫グロブリン静注, メチルプレドニゾロンパルス療法, 血漿交換を行ったが, いずれも効果を示さず, 全例で罹患肢の麻痺を残した. 麻痺の程度はリハビリテーションを継続することで全例において軽快している. リハビリテーションの継続は急性期の効果的な治療法が確立していない本疾患において重要と考えられた. 当院で経験した3例からはEV-D68を検出できなかったが, EV-D68は感染早期の段階でしか検出されないため, 検体採取が遅すぎた可能性や検体保存の方法が不適切であった可能性がある. 急性弛緩性脊髄炎の病態解明のために更なる研究が必要である.

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© 2017 一般社団法人日本小児神経学会
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