漢字書字に特異的障害をもつ学習障害児の1例について報告した. 本症例は13歳で, WISC-RにてVIQ114, PIQ100と全般的知能は正常であったが, 漢字書字に関しては小学1, 2年生レベルの単語のうち35%しか書けなかった. 認知心理学的には本症例の, 漢字失書の障害機序は字形の想起障害と思われた. また, 複雑図形の記憶再生課題の正答率の低下も認められたことから, 漢字と複雑図形の形態想起障害の神経心理学的基盤は共通である可能性が考えられた. このような症状は, 成人での側頭葉後下部損傷によって生じる漢字の純粋失書例の症状と類似しており, 本症例の責任病巣は側頭葉後下部であると推定した.