抄録
大阪歴史博物館に収蔵されている下郷コレクションは、かつて滋賀県長浜市に所在した財団法人下郷共済会が所蔵したものである。当コレクションに含まれる瓦経は出土地などの情報をもたず、これまでに公表されたこともないため、ほとんど知られることがなかった。本稿ではこれら瓦経を新例として報告するべく、校合およびその内容を検討を行った。その結果、これらが伊勢市小町塚瓦経と一連のものである可能性がきわめて高いことがわかった。そのなかには既出資料によって補完される書写内容をもつ個体も存在し、瓦経製作を考える上で興味深い資料といえよう。さらに、経典以外の書写内容をもつ個体が含まれていることもあらたに判明した。その内容は天台宗の僧・光宗(一二七六~一三五〇)による『渓嵐拾葉集』の一部と合致する。経典以外の内容をもつ瓦経をどのように捉えるべきか、今後に残された課題として注目される。