中谷省古は大阪の人形師であるが、その人物像や活動の詳細は知られていなかった。本稿は、特別展準備過程での調査成果をもとに、生人形興行、医学、美術といった諸点から資料を引用し、これらを付き合わせることで彼の幅広い活動の実態に迫ることを目指した。特に中谷省古をめぐる医学と美術、そして生人形興行との接点については、同時代の美術や社会の潮流に照らし合わせ、考察する。そのうえで、現存が確認できる唯一の作品「奥田ふみ像」や残された資料類から、省古の人物表現は、[外見を似せる]ことだけにとどまらず[内面をリアルに表現する]ことをも追求していたのではないかという見解を呈示する。