2023 年 1 巻 p. 1-4
Clostridioides difficile感染症(CDI)は,トキシン産生C. difficileが腸炎や下痢症を引き起こす感染症である.抗原検出法でグルタメートデヒドロゲナーゼ(以下GDH)陽性・トキシン陰性の場合,偽陰性と非産生株を区別できず,CDIであるかどうかの判断が難しい.このため,toxigenic cultureあるいはトキシン遺伝子検出法を行うことが推奨されており,院内でのtoxigenic cultureの運用に向けて検討を行った.GDH陽性・トキシン陰性の検体17件を培養し,発育した14件に対しトキシン抗原検出法と自家調製試薬によるToxinBのPCR法を実施した.48時間培養後のコロニーでは14件中,PCR法は7件が陽性となり,トキシン抗原検出法は6件が陽性で1件抗原検出法では検出できなかった.院内でのCDI検査の運用は,従来の抗原検出法にてGDH陽性・トキシン陰性の場合,toxigenic cultureを実施とした.トキシン検出法はPCR法で行い,CDI診断・治療に役立てていきたい.
Clostridioides difficile infection (CDI) is an infectious disease in which toxin-producing C. difficile causes enteritis and diarrhea. In cases in which antigen detection is positive for glutamate dehydrogenase (GDH) and negative for toxin, it is difficult to distinguish false-negative and non-producing strains, which makes it difficult to determine if the patient has CDI. For this reason, toxigenic culture or toxin gene detection is recommended. In this study, we investigated the use of toxigenic culture in a hospital setting. A total of 17 GDH-positive and toxin-negative specimens were cultured. Toxin antigen detection and PCR for toxin B using homemade reagents were performed on 14 specimens that developed colonies. After 48 hours of incubation, 7 of these 14 colonies were positive in PCR, while 6 were positive and 1 was not identified using toxin antigen detection. Toxigenic culture is used for CDI testing in hospitals for cases that are GDH-positive and toxin-negative in conventional antigen detection. Toxin detection performed by PCR may be useful for CDI diagnosis and treatment in such cases.
Clostridioides difficile(C. difficile)は嫌気性グラム陽性桿菌であり,トキシン(毒素)を産生する株と毒素を産生しない毒素非産生株が存在する.トキシン産生株は,抗菌薬関連下痢症や偽膜性腸炎,イレウス,腸管穿孔などのC. difficile infection(CDI)を引き起こすことが知られている1).
CDIの多くが抗菌薬使用後の院内感染症とされ,院内集団発生で問題となっており,これらは患者間の交差感染や医療従事者,環境からの感染によると考えられている2).よって適切な感染予防対策を早期に講じる必要がある3).
CDIの検査法には,GDH検出法,トキシン抗原検出法,分離培養や糞便中のトキシン遺伝子検出法などがある.また,培地に発育した集落からトキシン検査を改めて行う二段階法(toxigenic culture)がある4).
一般的にGDHの感度は非常に高く,GDH陰性であればCDIは否定的となる.また,トキシン抗原検出法は特異度が高いため,GDH陽性・トキシン陽性の場合はCDIを強く疑う.GDH陽性・トキシン陰性の場合は,偽陰性と非産生株を区別することはできず,CDIであるかどうかの判断が難しい.したがって,toxigenic cultureあるいは便検体からのトキシン遺伝子検出法を行うことが推奨されている5).
当院では,現状,糞便を用いたGDHとトキシンの抗原検出法のみ行っており,GDH陽性・トキシン陰性の場合にCDIなのかの判断が困難である.
今回,CDI診療ガイドラインに従い検査を進めることと,培養後の集落からトキシンを検出するにあたって,抗原検出法(以下コロニーIC)とPCR法(以下コロニーPCR)を比較し,院内で実施する検査方法を決定することを目的として,検討を行った.
2022年5月から2022年11月までの期間に当院でGEテスト イムノクロマト-CD GDH/TOX(日水製薬)(以下GEテスト)を実施した226件のうち,GDH陽性・トキシン陰性となった便検体17件を対象とした.
2.検討項目 1)糞便中のC. difficile培養培養検査はS-CCFA培地(日本ベクトン・ディッキンソン)に接種して35°C,48時間嫌気培養を行った.
2)培養陽性分離株のCDトキシン検出発育したC. difficileを疑うコロニーを以下の2つの方法でトキシン検出を行った.
①コロニーIC発育したコロニーを,GEテストの希釈液に加え混濁調整し,トキシン検出を行った.
②コロニーPCR発育したコロニーを,自家調整試薬によるリアルタイムPCR法を行い,結果は蛍光強度の上昇をもって陽性とした.PCR処理の工程を以下に示す.
a.検体処理DEPC処理水(ナカライテスク)100 μLに,発育が確認できた培養集落1 μLを加え混濁調整し,95°Cで10分間加熱溶菌後5分間遠心し,その上清2 μLをDNA templateとした.
b.試薬調整PCR反応液はTB Green Fast qPCR Mix(タカラバイオ)を用いて調整し全量20 μLで行った(表1).
PCR法の試薬調整
試薬 | 使用量 | 最終濃度 |
---|---|---|
TB Green Fast qPCR Mix(2×) | 10 μL | |
PCR Forward Primer(10 μM) | 0.8 μL | 0.4 μM |
PCR Reverse Primer(10 μM) | 0.8 μL | 0.4 μM |
Template(<100 ng) | 2 μL | |
DEPC処理水 | 6.4 μL | |
Total | 20 μL |
C. difficileが産生するトキシンはトキシンA(腸管毒素)とトキシンB(細胞毒素)が存在する.CDI発症に関わるのはトキシンA+B+とトキシンA−B+の株で,トキシンA−B−の株は臨床症状を伴わない5).このため,今回の検討ではトキシンBをコードする遺伝子(tcdB)を検査した.
表2に示したトキシンB遺伝子(tcdB)の非反復塩基配列(NK104-NK105:tcdB)のプライマーを用いてPCR反応を行った6).
使用したプライマーの塩基配列
Primer | Sequence | |
---|---|---|
ToxinB | NK104 | 5′-GTGTAGCAATGAAAGTCCAAGTTTACGC-3′ |
NK105 | 5′-CACTTAGCTCTTTGATTGCTGCACCT-3′ |
核酸増幅装置はCFX96 Deep wellリアルタイムPCR解析システム(日本BIO-RAD)を使用した.プロトコルはSTEP 1が95°C・30秒,STEP 2が95°C・5秒,60°C・10秒,蛍光強度測定30サイクルとした.
GEテストでGDH陽性・トキシン陰性となった17件の検体の培養以降のフローチャートを図1に示す.
GEテストでGDH陽性・トキシン陰性となった検体のフローチャート
培養の結果,17件中14件で発育が確認され,3件は発育が認められなかった.
48時間培養後のコロニーICとコロニーPCRの結果の比較を表3に示す.発育した14件の集落からコロニーICにて検査した結果,6件がトキシン陽性となった.一方,コロニーPCRで検査した結果,7件がトキシン陽性となった.
コロニーICとコロニーPCRの結果の比較
コロニーPCR | 合計 | |||
---|---|---|---|---|
陽性 | 陰性 | |||
コロニーIC | 陽性 | 6 | 0 | 6 |
陰性 | 1※1 | 7 | 8 | |
合計 | 7 | 7 | 14 |
※1コロニーICにて48時間培養で陰性となったが,培養日数を延長し再検査を行うと陽性となった.
コロニーICで陰性,コロニーPCRで陽性と結果が不一致となった検体1件は,培養日数をさらに48時間延長し,再度コロニーICで検査を行うと陽性となった.
トキシン陽性となった検体は,コロニーIC,コロニーPCRともに7件となり,陽性検体は全て一致した.
Clostridioides difficile感染症診療ガイドライン2022では,CDIの検査には便から直接トキシン遺伝子の検出を行う方法も推奨されている.しかし,当院のCDI検査件数と試薬の個装単位,使用期限を考慮し,今回はこの方法は断念することとした.代わりにtoxigenic cultureを実施しようと考え,培養後のトキシン検出を自家調整した試薬を用いるPCR法を行うことで,コストをかけずに検査可能であると考えた.
今回の検討で発育しなかった3件については,使用した糞便は残余検体であり,一部接種量が少ないものがあったため,発育しなかった可能性が挙げられる.糞便検体における分離培養検査のポイントとして,糞便検体は十分量採取すること(5 mL以上,あるいは母指頭大以上)や,選択培地に十分量(100 μL)接種することが重要とされる7).よって培養を実施する際,検体量が少ない場合は検体の再提出などの必要性があると考えられた.
コロニーからの最適なCDトキシン検査条件として48時間培養コロニーを用い,McF 5.0以上の菌液で実施することが迅速かつ正確なコロニーICの検査条件であると報告されている8).このため,我々はコロニーIC,コロニーPCRともに48時間培養で行った.48時間培養後の検査ではコロニーICで陰性,コロニーPCRで陽性と結果が不一致となったものが1件あった.この不一致検体1件については,培養日数を延長し再検査を実施したところトキシン陽性となった.このことからコロニーICでは48時間培養でも,偽陰性となることがあると考えられる.48時間培養コロニーでは,菌液濃度がMcF 4.0以下では偽陰性となる株が認められるという報告がされている9).また,トキシンの産生量については,培地の成分や培養条件などによって変化すると言われており9),今回のコロニーICで偽陰性となった可能性として考えられる.
コロニーPCRは48時間培養でコロニーICが陰性であった検体もトキシン陽性と判定することが可能であったため,当院で行ったコロニーPCRは48時間培養で確実に検出可能であり,正確性に優れていると考えられる.
Toxigenic cultureを行うことにより,GDH陽性・トキシン陰性であった14件中7件が,実際はトキシン陽性であることが判明した.従来のtoxigenic cultureは抗原検出法で行うことが推奨されているが,当院では検出感度や自家調整によりコストダウンしたPCR法でのtoxigenic cultureを実施することとした.これにより,トキシン産生の正確な結果が得られ,隔離期間の短縮や患者の行動制限の解除に繋がると考えられる.
Toxigenic cultureを実施することで,トキシン産生の有無がより正確にわかるようになったことにより,今後のCDIの治療方針や感染対策に大きく貢献できると思われる.
院内でのCDI検査の運用としては,従来の抗原検出法にてGDH陽性・トキシン陰性となった場合,toxigenic cultureを実施とした.トキシン検出は48時間培養時に正確性がより優れていたPCR法にて行うこととし,今後のCDI診断・治療に役立てていきたい.
発表内容に関連し,開示すべき利益相反はない.
本研究の一部は,京都岡本記念病院 第14回研究発表会において発表した.