岡本医学雑誌
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実践報告
包交車のゾーニングと物品定数化の試み
~感染制御チームの指摘から~
小谷 華穂
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電子付録

2024 年 2 巻 論文ID: 2024-001

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抄録

包交車の整理整頓・ゾーニング・鋼製小物の管理の問題点が顕在化していると,院内感染制御チームから指摘を受けた.そこで包交車の物品を定数化し整理整頓,ゾーニングを行うことを目的として取り組んだ.調査対象者は包交車を使用することの多いリーダー業務を担う経験年数5年目以上の看護師を対象とした.

聞き取り調査の結果「使用頻度」「不足する物品」を明らかにした.ゾーニングの視点から物品の取り出しやすさや片づけやすさ,使用後の補充効率化を行った.包交車のすべての物品の定数表を作成し,整理整頓を目指した.

包交車を置いている処置室も感染源の一つであると認識し,物品の位置をゾーニングすることで,作業スペースの確保に繋がり,感染経路を遮断する働きかけとなった.包交車のなかの物品を定数化することで,物品の補充過多防止や管理の効率の向上に繋がった.

Abstract

The infection control team in our hospital has reported increased problems with organizing, zoning, and management of treatment supplies on a nursing cart. Thus, we determined the appropriate number of individual treatment supplies required for a well-organized cart with zoning. This was based on interviews with nurses with experience of 5 years or longer who had many opportunities to use such a cart as a leader.

The results permitted clarification of the frequency of use of a cart and the appropriate number of treatment supplies on the cart. Zoning of these supplies on the cart allowed easy use and a tidy cart, and this also permitted effective supplementation after use. A table of the appropriate number of supplies for a well-organized cart was prepared.

Zoning of the supplies was performed because treatment rooms in which carts are placed might be an infection source. Securing a working space in the treatment room allows the infection route to be broken. By determining the required number of individual goods and tools on a cart, overloading was prevented and efficiency of management was improved.

はじめに

A病院はCOVID-19の感染が拡大する以前から感染制御チーム(以下ICTと略す)が活動している.A病院のICTは,手指衛生,環境整備,廃棄物・滅菌物の取り扱い,浸潤区域の管理などを管理項目として,病院環境の問題に対してアドバイスをしている.活動の一環として各病棟のラウンドを行い,滅菌物・滅菌小物の取り扱い・管理に関する強化月間があった.その際にB病棟は滅菌物・滅菌小物の管理・包交車の現状から,3つの視点での問題点が顕在化していると指摘を受けた.

1つ目の視点として,整理整頓である.包交車のなかの滅菌バッグを折り曲げて収納している,滅菌バッグが輪ゴムでまとめられている,滅菌小物の仕切りとして段ボールが活用されている,包交車のなかに物品を詰め込みすぎているなどと指摘があった.

2つ目の視点として,清潔区域・不潔区域のゾーニングである.物品の清潔・不潔を問わず包交車のうえにあり,消毒液なども一緒に置かれていると指摘があった.消毒ボトル開封後の使用期限の記載が出来ておらず,いつ開封したのか不明であり,殺菌・消毒効果の低下の可能性について指摘があった.

3つ目の視点として,鋼製小物の管理である.鋼製小物の使用期限が切れていることや,定数管理が出来ておらず在庫を多く抱えていることについて指摘があった.鋼製小物の滅菌期限切れや整理が出来ていないことにより,無菌性の維持が出来ていないこと,物品の定数の多さや補充過多から物品の紛失に繋がっていた.

実際にB病棟では,回診があるため患者の病室へ包交車を移送している.また看護師が担当制で包交車のなかの補充を行っているが,包交車のなかに何が入っているのか分かりにくく,物品を取り出しにくい現状があった.その結果,包交車のなかの物品を包交車の上段に出すことで今度はゾーニングの問題があった.遠藤は,「感染症の発生には『感染源となる微生物の存在』,『感染症を発症する宿主の存在』および微生物が宿主に感染する経路,いわゆる『感染経路』の3要因が存在する.これらの3要因のうち1つでもブロックできれば感染症の発症あるいは伝播を抑えることが可能である.なかでも効率的な感染制御には感染経路の遮断が有効である.」1)と述べている.ICTより指摘があった3つの視点を改善し,包交車が感染経路になることを防ぐ必要があった.また物品過多により作業スペースが失われ,作業効率の低下にも繋がっていたため,物品の種類を削減し,選択肢を少なくすることで,包交車による交差感染を防ぐことに繋がるのではないかと考えた.物品の準備や物品補充に費やす時間を短縮させることは,看護実践を充実させる一助になる.包交車の物品を定数化し,整理整頓することで清潔・不潔のゾーニングを促し,包交車の物品管理と補充の効率化を行うことを目指し取り組んだので,ここに報告する.

目的

A病院B病棟の包交車の物品を定数化し,清潔・不潔のゾーニングを行うことで,包交車の物品管理と補充の効率化を行うことを目的とする.

方法

研究デザイン:実践報告

研究期間:2022年8月~2023年1月

研究対象:リーダー業務を担う経験年数5年目以上の看護師 計11名

B病棟ではリーダー業務を担う看護師は5年目以上である.そのため研究対象は,経験年数5年目以上の看護師とした.内訳として,看護師5年目以上10年目未満が4名,看護師10年目以上が7名である.

データ収集方法:構成的面接法・観察法

データ分析方法:単純集計

面接調査内容として,以下1~6に示す.

1)包交車のなかで使用頻度が高い物品・低い物品

2)包交車のなかで不足する物品

3)包交車のなかで不要だと思う物品

4)包交車のなかの鋼製小物の定数と使用頻度

5)現在使用している包交車の使いやすさ

6)包交車の改善は必要かどうか

なお,アンケート依頼とその詳細については,J-STAGEオンラインジャーナル版に電子付録として掲載する(Supplementary materials 1, 2).

倫理的配慮

研究者の所属する倫理委員会に審査を依頼し,許可番号「2023-36」と承認を得た.

結果

面接調査より,調査内容の回答をまとめた(表1).面接調査より,包交車の中身の物品をすべて書き出し使用頻度が高い物品と低い物品,必要な物品と不要な物品を項目ごとに書き出し,物品の定数表を作成して整理した.次に鋼製小物だけでなく,包交車のなかのすべての物品の定数表を作成した.その理由は,補充過多を防ぐためであり,また物品の取り出しやすさや片づけやすさ,使用後の場への補充効率化を重視したためでもある.現在使用している包交車が使いやすい,包交車の改善は不要と答えた割合は約27%と,10年目以上の看護師からの割合が高かった.その理由として使い慣れているから,物品の場所を覚えているからという回答が得られた.一方で現在の包交車が使いにくい,包交車の改善は必要と答えた割合は約73%であった.その理由として,包交車のなかに物品を詰め込みすぎている,取り出しにくい,探すことに時間がかかる,物品数が多すぎるという回答が得られた.鋼製小物の使用頻度が低い物品に関しては5年目以上10年未満の看護師が包交車を使用してきたなかで実際に使用したことがない,またはほとんど使用したことがない結果であった.

表1

聞き取り調査の質問項目と回答内容

質問内容 回答
1)包交車のなかで使用頻度 高い物品 2枚/5枚/10枚ガーゼ,オプサイト,消毒綿棒,処置シーツ
低い物品 シリンジ類,ルートチューブ
2)包交車のなかで不足する物品 2枚/5枚/10枚ガーゼ,消毒綿棒,処置シーツ
3)包交車のなかで不要だと思う物品 不明,分からない,不要な物品はないが物品数が多い
4)包交車のなかの鋼製小物 定数 中鑷子無鉤:24,クーパー:10,抜糸剪刃:5
眼科剪刃:2,ゾンデ:4,エイヒ:3,シャーレ:1
使用頻度 高い:中鑷子無鉤,抜糸剪刃
低い:ゾンデ,エイヒ,シャーレ
5)現在使用している包交車の使いやすさ 使いやすい:3名,使いにくい:8名
6)包交車の改善は必要か 不要:3名,必要:8名

面接調査を行った結果と,A病院のICTより指摘があった整理整頓,清潔区域・不潔区域のゾーニング,鋼製小物の管理の3つの視点に対して,包交車の整理整頓を行った(図1図2).清潔物品も不潔物品も包交車の上段にあり,衛生材料や開封後の物品,使用後の物品,消毒液などが一緒に置かれている現状があった.解消するために物品の定数を減らし,包交車のなかを整理した.包交車横にラックを作成し,そこに手袋などをかけることで上段の作業スペース確保をした.清潔・不潔のゾーニングの視点から,包交車の上段の作業スペースには物品を置かず清掃できる状態にすることが望ましいためである.消毒やアルコールなど開封後に期限が決められているものに関しては,日付記載を徹底するように,開封したスタッフが日付記載するようにした.鋼製小物は使用し再滅菌した後にそのまますぐに使用し,同じものを繰り返し使用していた.そのため引き出しの奥にある滅菌小物は滅菌期限が切れている現状であり,滅菌性の管理が不十分であった.定数変更し1ヶ月後に評価をしたが,定数以上に臨時で滅菌小物を使用することがなかっ‍た.

図1

改善前の包交車

図2

改善後の包交車

考察

物品を項目ごとに書き出し,定数表を作成して整理した.整理するにあたり,職場環境の改善を目的に5S活動を基に考えた.一番初めに取り組むこととして「整理」である.面接調査を行うことで,働いている看護師スタッフが感じている必要な物品と不要な物品,使用頻度の高い・低い物品などが明らかになった.上石は,「医療現場に不要なモノがあると,有効スペースが少なくなり,作業スペースの確保が難しくなったり,作業に余計な時間がかかったりと,多くの無駄が発生する」2)と述べている.物品を整理することで,包交車の上段に清潔物品・不潔物品を置くことをしなくなり,作業スペースの確保することに繋がった.

また,整頓は「定位置」「定方向」「定量」「表示」「標識」の5つのステップがある.整理する際に包交車のなかの物品位置を決めることで,患者の処置介助時に物品を探す時間短縮に繋がり,介助時に物品を処置室へ取りに行くという中断時間がなくなるなど,一つ一つの作業効率が向上していると考える.またB病棟の状況に沿った適切な定数ではなく,個人の感覚の補充であった.しかし,定数化することで補充過多を省くことができ,消費期限を過ぎる物品の発生を防ぐことができるようになった.定位置を決め,定量を考慮することで物品のコスト削減に繋がっていると考えられる.

さらにICTからの助言をふまえ,ゾーニングの視点からも整理整頓を行った.坂木は,「包交車は交差感染の起点になりやすい」3)と述べている.また,近藤らは,「包交車はMRSAなどの多剤耐性菌で汚染されている可能性がある.」4)と述べている.B病棟の包交車では,包交車の側面に衛生材料が管理されており,物品を詰め込みすぎていたことからパッケージが破損する可能性があった.また包交車は回診時の移送や,患者のベッド周囲で医療処置をすることも多いため,環境に接触しスタッフの手を介して汚染する可能性もある.そのため清潔・不潔が混在する包交車では,感染経路の遮断をすることが必要であった.そのため,包交車を使用後に包交車上段の清拭をすることが重要であると考えられた.また,整理整頓することで処置を行う場所,衛生材料が置かれている場所,調剤を行う場所,ごみ箱が設置されている場所など清潔物品と不潔物品が交差しないようゾーニングし,作業スペースの確保に努めることができたのではないかと考える.患者周囲に物品を置くことなく患者に安全に処置が施行され,清潔区域と不潔区域をすぐに区別できるようになったため,看護実践の充実に繋がっていると考える.毎日使用するため環境汚染を受ける機会も多く,包交車が交差感染の起点とならないよう,衛生環境の維持に努めなければいけない.清掃を日常的に継続して行うことが衛生的に管理できることに繋がると考える.包交車を置いている処置室も感染源の一つであると認識し,包交車を使用基準に準じた運用を行っていくことで,包交車が交差感染の起点となることを防ぐことに繋がる.

包交車を整理整頓していくうえで,変更前の包交車が使い慣れているから使用しやすい,物品の場所を覚えているから改善は不要とした約27%は10年目以上の看護師であった.包交車を使いやすい・改善は不要だと答えた割合は経験年数の高い看護師が多かったことから,使用頻度が高いため包交車を使い慣れているのではないかと考える.使い慣れるまで時間はかかる可能性はあるが,清潔な状態を習慣化し当たり前に使用していく必要がある.物品を探す時間や,間違えるリスクの軽減になるため,誰もが直感的に物品位置が分かる包交車にしていくことが大事である.

整頓をするうえで,包交車のすべての表示や標識の作成まではできなかった.整理整頓され清潔を保つためには,継続して行う必要がある.包交車を使用するスタッフが日々の定数チェックで物品を管理し,意識づけしていくことが今後の課題である.

結論

物品位置を清潔・不潔でゾーニングをすることで,作業スペースの確保に繋がり,感染症の感染経路を遮断する働きかけとなった.清潔物品・鋼製小物など包交車のなかの物品を定数化することで,物品の補充過多防止や管理の効率の向上に繋がった.

利益相反

発表内容に関連し,開示すべき利益相反はない.

本論文の作成にあたっては,本院看護部 青山芽久師長に適切かつ熱心な指導を受けたので,ここに謝意を表す‍る.

本論文の要旨の一部は,京都岡本記念病院 第15回研究発表会(2024年1月),第26回京都府看護学会(2024年1月)において発表を行った.

文献
  • 1)  遠藤 史郎.感染制御における臨床検査の役割と重要性 感染制御とはなにか? 臨床病理.2018; 66(11): 1233-1238.
  • 2)   上石  政代.時間短縮時間短縮・コスト削減・医療安全に‍効‍く!5S活動で実現する職場環境改善.Nursing BUSINESS.2020; 10: 38-42.
  • 3)  坂木 晴世.平常時とアウトブレイク時の対応ができる!院内エリア&部門別“はじめてさん”の感染対策レクチャーブック.株式会社メディカ出版;2019. p. 100-106.
  • 4)   近藤  龍一, 林  真樹.包交車廃止に向けての取り組み.日本外科感染症学会雑誌.2013; 10(5): 677.
 
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