音楽学
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アルノルト・シェーンベルクの「発展的変奏」 ―─その手法の変遷を中心に―─
佐野 旭司
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2018 年 64 巻 1 号 p. 31-48

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抄録

  本稿では、シェーンベルクの「発展的変奏」の概念に基づく作曲技法が彼の作品の中でどのような変遷を遂げているかについて、特に《浄夜》Op.4(1899)から《3つのピアノ小品》Op.11(1909)までの作品に焦点を当てて考察する。
  発展的変奏とはシェーンベルクによる用語であり、主題や動機の発展のあり方に対する自らの理念を表したものである。そしてその理念とは、主題やその部分動機は常に多様に変形しそれにより外見の大きく異なる新動機が導き出されるべきである、ということが彼の言説から読み取れよう。
  ではそのような理念は作曲技法として作品にどのように反映され、さらにその技法はどう変化しているか。まず《浄夜》、《ペレアスとメリザンド》Op.5(1903)、《弦楽四重奏曲第1番》Op.7(1905)では動機を段階的に発展させる、すなわちある動機の発展により新たな動機が作られ、さらにその新動機からまた別の動機が順次生成されていく手法が中心となる。一方《室内交響曲第1番》Op.9(1906)では手法が変化し、ほとんどの動機が冒頭動機から直接発展している。それにより冒頭動機を中心とする統一性がより強くなった。そして《3つのピアノ小品》第1曲では無調になるとともに発展的変奏の手法も、従来のあり方が継承されながらも本質的に変化し、発展の関係も動機そのものの形象よりもより根源的な音程の要素に依るところが大きくなる。
  上記の過程には、動機の発展を強化させていく方向性が窺えよう。この基本的傾向は、垂直的な動き(和音の進行)よりもむしろ動機変容の水平的な動き(旋律ないし音程)を重視するというシェーンベルクの音楽観の現れでもあるが、その方向性は結局無調に向かう方向とも一致している。最初の無調作品Op.11-1の変奏技法における音程要素の著しい役割は、後の12音技法に代表される音列思考への方向を萌芽的に指し示すものでもある。

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2018 日本音楽学会
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