音楽学
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ネオ・リーマン理論のリーマン受容にみる概念変容──「進行/転換」と「PLR 変形」を中心に──
西田 紘子
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2019 年 65 巻 1 号 p. 1-17

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抄録

  1980年代以降、米国では、D. ルーウィンの『一般化された音程と変形』(1987)で提唱された変形理論から発展して、H. クランペンハウアーやB. ハイアー、R. コーンによる一連の論考を中心にネオ・リーマン理論が形作られてきた。この理論は、ポスト調性音楽や後期ロマン主義音楽を分析対象として展開されてきたが、2000年代に入ると音楽理論史的な問い直しも現れ始めた。すなわち、ネオ・リーマン理論の論者たちが、ドイツの音楽理論家フーゴー・リーマンによる諸概念をどのように領有したか、それが主要な論点の一つである。
  その代表的論考(Engebretsen 2011)によれば、和声進行に関する「進行/転換 Schritt/Wechsel」というリーマンの概念と分類学(Riemann 1880)は、ネオ・リーマン理論において「同主調」「導音転換」「平行調」(すなわちPLR)の変形群へと置き換えられたものの、両者には和音近親や調性の捉え方等の違いがあるという。その点で、ネオ・リーマン理論はリーマン理論を再発見しただけでなくその趣旨を更新したと言われる。
  こうした主張は一定の妥当性を有する一方、以下の3点から、通史的に再考されなくてはならない。(1)リーマンの概念とその元となったA. エッティンゲンの概念(1866)との関係や、リーマンの理論的思考の心理学的転回を含めたリーマンの和声理論の動態、(2)ネオ・リーマン理論の各論者によるPLR以外も含む変形諸概念との関係、(3)2000年代以降のネオ・リーマン理論第2世代(Kopp 2002, Rings 2011)におけるPLR変形の変容およびそれとリーマンの諸概念との関係、である。本稿ではこれらの点から、より広範で緻密な言説分析の基に先行研究による歴史化を更新し、リーマンに由来する諸概念の変容の過程を、領有と歴史化の相互作用および方法の洗練過程として示した。

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2019 日本音楽学会
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