抄録
私たちは放射能泉を利用することによって低線量被曝を受けることになるが、この程度の被曝は免疫細胞を活性化するのでからだに良いと宣伝され、広く信じられてきた。しかし福島第一原発事故以降、放射線の健康への影響を、どのような低線量被曝でもからだに害を及ぼすとする「LNT仮説」で説明されるようになり、放射能泉による低線量被曝に関しても再考の必要に迫られている。
放射能泉には不明な点が多く、温泉治療に利用されている低線量被曝がからだにとって益なのか害なのかを示す決定的な証拠は得られていない。この点を明らかにすることは放射能泉の温泉医学的効果を立証するうえで避けて通れない課題の一つである。
本説では、最初に放射能泉を正しく理解するために必要な基礎知識を整理する。次にわが国の代表的ないくつかの放射能温泉地から入手した温泉分析書に基づき、これらの温泉水に含まれている有効成分について比較検討する。
続いて放射能泉の本質的作用成分であるラドンの性質、ラドンによる被曝、ならびにラドン被曝で発生する活性酸素について整理する。また、欧米諸国で広く知られている住居内でのラドン吸入による肺がんのリスクにふれ、これらの国で得られたデータを基にわが国の放射能泉でのラドン吸入による肺がんのリスクについて考察する。
さらに、がんの根本的原因はDNAの損傷にあるので、その損傷の度合いを示す酸化的DNA損傷マーカーである8-ヒドロキシ-2’-デオキシグアノシン(8-OHdG)について説明し、尿中に排泄される8-OHdGが放射能泉の医学的効果を検証するための一つの指標としての可能性を検討する。
最後に、以上を総合して放射能泉の温泉医学的効果を検証するための実験系の構築に関して提案する。