日本温泉気候物理医学会雑誌
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77 巻, 2 号
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Editorial
総説
  • 矢野 一行
    2014 年 77 巻 2 号 p. 108-119
    発行日: 2014/02/28
    公開日: 2014/06/26
    ジャーナル フリー
      私たちは放射能泉を利用することによって低線量被曝を受けることになるが、この程度の被曝は免疫細胞を活性化するのでからだに良いと宣伝され、広く信じられてきた。しかし福島第一原発事故以降、放射線の健康への影響を、どのような低線量被曝でもからだに害を及ぼすとする「LNT仮説」で説明されるようになり、放射能泉による低線量被曝に関しても再考の必要に迫られている。
      放射能泉には不明な点が多く、温泉治療に利用されている低線量被曝がからだにとって益なのか害なのかを示す決定的な証拠は得られていない。この点を明らかにすることは放射能泉の温泉医学的効果を立証するうえで避けて通れない課題の一つである。
      本説では、最初に放射能泉を正しく理解するために必要な基礎知識を整理する。次にわが国の代表的ないくつかの放射能温泉地から入手した温泉分析書に基づき、これらの温泉水に含まれている有効成分について比較検討する。
      続いて放射能泉の本質的作用成分であるラドンの性質、ラドンによる被曝、ならびにラドン被曝で発生する活性酸素について整理する。また、欧米諸国で広く知られている住居内でのラドン吸入による肺がんのリスクにふれ、これらの国で得られたデータを基にわが国の放射能泉でのラドン吸入による肺がんのリスクについて考察する。
      さらに、がんの根本的原因はDNAの損傷にあるので、その損傷の度合いを示す酸化的DNA損傷マーカーである8-ヒドロキシ-2’-デオキシグアノシン(8-OHdG)について説明し、尿中に排泄される8-OHdGが放射能泉の医学的効果を検証するための一つの指標としての可能性を検討する。
      最後に、以上を総合して放射能泉の温泉医学的効果を検証するための実験系の構築に関して提案する。
原著
  • 境原 三津夫, 菊地 美帆
    2014 年 77 巻 2 号 p. 120-126
    発行日: 2014/02/28
    公開日: 2014/06/26
    ジャーナル フリー
    目的 : 地球上のある地点にいる人に対する天体の影響を力学的な観点から考える場合には、潮位をひとつの指標とすることができる。潮位は天体の引力が作り出す起潮力にともない変化する。したがって、潮位の変化をみることにより天体の引力の変化を推測することができる。潮位と陣痛発来および前期破水の関連性を検討し、天体の引力が分娩開始に及ぼす影響について考察する。
    方法 : 2010年1月1日から平成2010年12月31日までの1年間に、茨城県内のT病院で陣痛発来後に分娩に至った236症例と前期破水後に分娩に至った77症例を対象とした。これらの症例について陣痛発来時の平均潮位と当該年度の平均潮位の関係、前期破水時の平均潮位と当該年度の平均潮位の関係、潮の満ち引きと陣痛発来数の関係、潮の満ち引きと前期破水数の関係を統計学的に検討した。
    結果 : 陣痛発来時と当該年度の平均潮位の比較において、陣痛発来時の平均潮位は当該年度の平均潮位より有意に高値であった(p=0.006)。前期破水時と当該年度の平均潮位、潮の満ち引きと陣痛発来数、潮の満ち引きと前期破水数の間には、関係を認めなかった。
    考察 : 海面の昇降は、起潮力に起因している。起潮力とは、潮汐を起こす力のことで、月や太陽の引力がその主な成因となっている。陣痛発来時の平均潮位が当該年度の平均潮位より高いということは、陣痛発来が天体の引力の影響を受けている可能性があることを示唆している。
  • 海崎 彩
    2014 年 77 巻 2 号 p. 127-142
    発行日: 2014/02/28
    公開日: 2014/06/26
    ジャーナル フリー
    背景・目的 : 夏季暑熱環境下では食物摂取が減少し、体格や競技力に影響を及ぼす可能性がある。そこで、夏季の食物摂取の減少について調査し、体格に及ぼす影響を調べるとともにエネルギー代謝や甲状腺ホルモンとの関連について検討した。
    方法 : 高校硬式野球部に所属する男子生徒を対象として、春季~冬季にわたり栄養調査、身体計測、生活時間調査(AC : activity record)を3回行った。さらに、安静時エネルギー代謝量(REE : resting energy expenditure)、甲状腺ホルモンを測定し、エネルギー(E)摂取との関連を調べた。栄養調査からE摂取量を計算し、ACから総エネルギー消費量(TEE : total enregy expenditure)を算出し、エネルギー(E)バランスを決定した。またREEは呼気ガス分析により測定し、甲状腺ホルモンはT3、FT3、FT4を定量した。
    結果 : 夏季のE摂取の減少は、約70%の選手で起こったので、E摂取が減少した群をLA、減少しなかった群をHAとした。TEEは両群ともに夏季に増加したので、E摂取が減少したLAではEバランスは有意に低下し負に傾いた(約-690kcal/day)。彼らの体重および上腕周囲長はそれぞれ春季よりも有意に減少し(p<0.05)、その減少率は約2~4%であった。食事のエネルギー構成比率は、LAでは高炭水化物食、HAでは高脂肪食の傾向であった。また、E摂取が減少すると、マクロ栄養素もミクロ栄養素も減少した。REEは、夏季に有意に減少し、E摂取の減少と関連することが示唆された。一方、T3、FT3は、夏季には変化はなかったが、冬季に有意に上昇しREEとの関連が見られた。
    結論 : 夏季環境下におけるE摂取の減少は、体重および上腕周囲長の減少を引き起こし、体格に影響を与えた。E摂取の減少は、REEの低下と関連することが示唆された。
  • 治面地 順子, 宮川 俊平
    2014 年 77 巻 2 号 p. 143-150
    発行日: 2014/02/28
    公開日: 2014/06/26
    ジャーナル フリー
    目的 : 本研究は肩関節内外転動作時の肩関節周囲筋活動に関して、ゴムバンドを用いた負荷や、ゆっくりとした腹式呼吸に合わせた場合の影響について比較検討した。
    方法 : 対象は健常成人男性8名、肩関節0から90度(内転運動はこの逆)の外転動作を夫々8秒間かけて行った。そのときにゴムバンドなし、ゴムバンドあり、ゴムバンドとゆっくり行う呼吸法の3つの動作課題を設定した。上腕二頭筋、三角筋(前・中・後部線維)、僧帽筋(上・中・下部線維)と大胸筋を測定した。
    結果 : ゴムバンドを用いることで肩関節周囲筋の筋活動は高まり、さらに腹式呼吸に合わせることで、呼気外転時には三角筋中部線維や僧帽筋で筋活動は有意に大きくなり、吸気内転時には上腕二頭筋と三角筋前部線維において有意に減少した。
    考察 : 肩関節外転動作を行う際に、まず体幹の固定が肩関節外転動作に先んじて行われる。この時、呼気動作を行うことによって体幹安定筋である腹横筋の収縮が行われるために体幹の安定性が高まり、三角筋の収縮が効率よく行われたと考えられた。
    結論 : ゆっくりとした腹式呼気に合わせて行う肩外転運動は三角筋や僧帽筋の筋活動を効率良く高めることが示唆された。
  • 美和 千尋, 田中 紀行, 森 康則, 島崎 博也, 出口 晃, 鈴村 恵理, 水谷 真康, 前田 一範, 川村 陽一, 岩瀬 敏, 岩崎 ...
    2014 年 77 巻 2 号 p. 151-158
    発行日: 2014/02/28
    公開日: 2014/06/26
    ジャーナル フリー
      温泉水の飲泉時における泉質の作用を調べるため、人工塩化物泉と人工炭酸水素塩泉が胃電図、心拍変動および主観的変化に及ぼす影響について検討した。若年健康成人10名(平均21.9歳)を対象とし、30分間安静後、室温度下の人工塩化物泉、人工炭酸水素塩泉、精製水200mlを1分間かけて飲み、その後1時間胃電図と心拍変動を測定した。測定順序はランダムで、また飲料内容は被験者に伝えずに行った。胃電図は胃活動3cpm、腸活動6cpmのパワー相対値を、心拍変動は心臓交感神経活動(低周波成分/高周波成分率)と心臓副交感神経活動(高周波成分パワー)、主観的変化は飲んだ水の味、胃腸の痛み感や違和感を申告させた。胃の活動は、人工炭酸水素塩泉で飲水直後に大きく、30分後小さくなり、この変化には人工炭酸水素塩泉の成分が、人工塩化物泉では精製水に比べ、有意に味があると申告され、これには主観的な要因が、胃の活動が精製水では30分後から大きくなり、交感神経活動では精製水の飲水直後と15分後、人工炭酸水素塩泉で30分後に有意に活動が亢進した。この変化には、複合的な要因が関与していると考えられた。
  • 早坂 信哉, 堀口 逸子, 川南 公代, 渡邉 英明, 丸井 英二
    2014 年 77 巻 2 号 p. 159-170
    発行日: 2014/02/28
    公開日: 2014/06/26
    ジャーナル フリー
    背景 : 日本は27,000もの源泉をもつ温泉大国である。日本人はレジャーとして温泉を多く利用しているが、代替医療の一環として医療機関外で温泉が療養目的でどのように利用されているかは明らかではなかった。それゆえ、本研究は一般住民における温泉の代替医療としての利用頻度やその目的など現状を明らかにすることを目的とした。
    方法 : 2011年1月に消費者モニターとしてインターネット調査会社に登録してある20歳から69歳までの10,400人の一般住民(男女各5,200人)に対して、オンラインによる自記式調査票による調査を行った。
    結果 : 10,400人の消費者モニターのうち、3,227人の者が調査に回答した(回答率31.0%)。このうち完全な回答のあった3,212人を本研究の解析の対象とした。この調査では過去1か月以内に177人(男85人5.5%、女92人5.7%)が温泉療養(入浴、飲泉、吸入)を医療機関外で実施していた。過去1か月以内に医療機関に通院した者のうち、9.1%(51人)が温泉療養を実施していた。一方、1か月以内に医療機関に通院のない者では温泉療養の実施者は3.9%(41人)であり、医療機関通院者で有意に温泉療養を実施している者の割合が高かった(p<0.001)。温泉療養を実施している者のうち、男7人(8.2%)と女1人(1.1%)の者のみが温泉療養について医師に相談をしていた。医師から温泉療養の勧めを受けていたのは、男8人(9.4%)と女2人(2.2%)だった。
    結論 : この調査は、日本における一般住民を対象とした温泉療養利用に関する概要を明らかにした。温泉療養に関して医師への相談や医師からの勧めを受けていた者はごくわずかだった。
  • 後藤 康彰, 早坂 信哉, 中村 好一
    2014 年 77 巻 2 号 p. 171-182
    発行日: 2014/02/28
    公開日: 2014/06/26
    ジャーナル フリー
    背景と目的 : 日常的な浴槽に浸かる温浴、温泉入浴施設の利用、緑茶の多飲は、日本人に特徴的な生活習慣である。我々の先行研究では、これらの習慣が、栄養バランスへの配慮、運動習慣、適切な睡眠、低ストレス、禁煙同様よい健康状態と関連するとの結果を得た。本研究では、浴槽浴、シャワー浴、温泉施設利用については季節要因を解析に加え、緑茶については茶葉で煎れた場合、缶・ペットボトルで飲む場合を加えて健康関連自己評価(主観的健康感、睡眠の質、主観的幸福度)との関連を検討した。
    方法 : 2012年に静岡県が県民6,000人を対象に実施した自記式アンケート調査項目のうち、主観的健康感、睡眠による休養、主観的幸福度を従属変数に、季節ごと(夏、春・秋、冬)の浴槽浴頻度(週7日/週6日以下)、シャワー浴(シャワーだけ/それ以外)、温泉施設の訪問頻度(月1回以上/月1回未満)、茶葉で入れた緑茶の1日あたり飲量(1日500mL以上/500mL未満)、缶またはペットボトルの緑茶の1日あたり飲量(1日200mL以上/200mL未満)を独立変数とし、性(男/女)、年齢(50歳未満/50歳以上)、年収(400万円未満/400万円以上)を調整因子としたlogistic回帰分析を実施した。
    結果 : 調査への回答者は3,054人(50.9%)であった。季節に関わらず毎日の浴槽浴は、主観的健康感(OR=1.27, 95%CI 1.05-1.52; p=0.012)、睡眠による休養(OR=1.41, 95%CI 1.13-1.77; p=0.003)、主観的幸福感(OR=1.35, 95%CI=1.15-1.58; p<0.001)が良い状態と有意に関連した。また、1年を通じて月1回以上の温泉施設利用する者は主観的幸福感(OR=1.25, 95%CI=1.03-1.50; p=0.021)が有意に高く、1日500mL以上茶葉で煎れた緑茶を飲む者は、主観的健康感(OR=1.24, 95%CI 1.01-1.53; p=0.039)が有意に高かった。
    考察 : 季節を問わず毎日の浴槽温浴、1年を通じた温泉入浴施設利用、茶葉で煎れた緑茶多飲は、主観的健康感がよい状態と関連するとの知見が得られた。これらの生活習慣を取り入れることが、健康増進に寄与することが示唆された。
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