抄録
本稿では,最適性理論の忠実性(faithfulness)の原則によって可能となった研究分野を概観する。第一に,忠実性の原則により音韻的対比の知覚しやすさ(perceptibility)を音韻文法に取り込むことが可能になり,それをもとに多くの新しい研究がなされている。また,忠実性の原則が対応理論(correspondence theory)によって定式化されたことにより,言語の音韻構造と言葉遊び(韻や洒落)に見られる構造とに平行性があることが明確に示され,言葉遊びのデータから言語の構造を探ることが可能となった。本稿ではこれらの研究を概観した後,そこで前提とされている音韻的対比の知覚しやすさに関する仮説を,音の近似性判断実験によって検証する。