抄録
Erickson他(2012)は,英語において文レベルの強勢パターンが,下顎の開きの大きさに現れることを示している。例えば,(I saw) five bright highlights (in the) sky tonightという文では,強勢パターンが{{3five 2bright}{4high 1light}}{3sky 2tonight}となり,顎の開き具合がこのパターンに一致する。本研究ノートでは日本語母語話者がこの文を発音したとき,どのようなパターンを示すかをEMAによって検証した。その結果,{five bright highlights}という句では英語母語話者と同様のパターンを示すのに対し,{sky tonight}では,英語母語話者と異なりtonightがskyより大きい顎の開きを示した。筆者らによる同時進行中の実験(Kawahara et al. 2014)では,日本語では文末に大きな顎の開きが見られることが明らかになっていることから,この結果は音声的母語転移(phonetic L1 transfer)の可能性が高いことを主張する。また本実験の結果に基づきEMAによる実験がL2獲得研究一般に活用される可能性について考察する。